第18話 山口


僕の予想に反して田中や高森の言う通り、

週明けは平穏な学校に戻っていた。

教室に入っても、特に視線を受けることもなく

以前の教室に戻っていた。田中ともいつもの様子でなんでもない会話をした。

ここまでは何事もなく時間は流れた。


ただ問題は放課後だった。

部員は基本的に皆真面目で、学校に来ているのに部活だけを休むような部員はこれまでもいなかった。

だが今日に限って、山口は部活の時間になっても姿を現さなかった。

しかし他の部員が言うには学校には来ているらしい。


モヤモヤした気持ちを抱えたまま部活はいつも通り始まった。

そして部活が始まって30分程経った頃、山口は部活に現れた。

部活に合流した山口はいつも仲のいい部員と、

変わらぬ顔で楽しそうに会話している。

部活の時間中僕と山口は会話もすることもなく、終わった。

どちらかが避けていたわけでもない。これがいつも通りなのだ。


部活が終わり部室で更衣を済ませ、帰路に歩み始め、

日常を取り戻したと思っていた矢先だった。


「ちょっといいか?」と山口が話しかけてきた。

前回の光景を思い出しながら、「いいよ」と答えると、

山口は何も言わずそのまま校門の方へと歩いて行った。

校門を出てからも山口は歩き続け、一体どこまで歩くのかと思いながら、

その後ろをついていった。

山口は学校の近くにある小川の遊歩道にあるベンチに腰を下ろした。


いま山口は一体どんな気持ちなのだろうか。

まだ山口は高森のことが好きなのだろうか。

山口は怒っているのだろうか、それとも悲しんでいるのだろうか。

この状況になっていくら考えても

やはり僕には山口になんと話かけていいのか分からなかった。


「悪かったな」山口は短く言葉を発した。

僕は返事をすることができなかった。そんな僕に山口は続けた。

「こないだはいきなり悪かったな。学校で噂されてイライラしてた。」

「…山口は悪くないよ。」

「いや、悪いことしたなと思ってたけど言い出せなくてごめん。」

返事ができないことに負い目を感じた僕は唯一思いついたことを尋ねた。

「高森のこと好きなのか?」

自ら発した失言が耳に入ってきたとき、踏み込んではいけない場所に入ったことを悟った。


山口はしばらく黙って考えた後、言葉を続けた。

「まだ好きなのかもな。でももう吹っ切れてたとしてもどっちでもダサい。」

「…何がダサいんだよ。」

「3回も告白してダメだったんだぞ。しかも結果振られたし。おまけにお前と付き合ってると聞いてなかなかダメージ受けたよ。」

もう失うものはないと思い、今まで疑問として抱いていたことを山口に聞いた。



「…なんで山口は高森のこと好きになったんだ?」

「…えっ?」

山口は少し黙った後、ポツリと言った。





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