第16話 くもり
週末の土曜日、僕は松丸書店の前にいた。
高森から受け取ったメモの通り、部活から帰り、
スマホをチェックすると
「明日13:00、松丸書店前」とメッセージが入っていた。
そのメッセージに「分かった」とだけ返した。
今週末は部活が休みとなったため、二つ返事で決まった。
これまでも部活は月の半分の土日が大半休みになっていた。
今日は朝から曇り空で、夕方は雨が降るとテレビの天気予報で誰かが言っていた。
松丸書店は家から30分ほどかかる場所にあるため、バスか電車のどちらで向かうか悩んだが、雨に備えてバスで行くことに決めた。最寄のバス停からは2駅の距離だ。
バスは10分程前に松丸書店のある駅前に着いた。
松丸書店は城本書店に比べて、少し大きめの書店だ。
駅からすぐの場所には5年近く前に出来たショッピングモールもある。
書店に入ると小さい子どもを連れた家族の姿もあった。
書店に入って間もなくして、トントンと右の肩をたたかれた。
振り向くと高森がいた。
「子ども好きなの?」
「いや、う~ん。どうだろ。」
「なんか意外だね。」
「でどうゆこと?」
「えっ、何が?」
「山口のこと」
「あぁ~。とりあえずどっか入ろ。」
そのまま書店から出て、ショッピングモールとは反対の方向にある
チェーン系列のカフェに入った。カフェに入ると先にカウンターでそれぞれオーダーをしたホットコーヒーとカフェオレを受け取り、席についた。
店内には高校生や大学生が自習をしている姿があったが、まだ店内はそれほど込み合っていなかった。
「で、さっきの続きなんだけど。」
「山口君のことでしょ?」
「山口が3回告白して、春休み前に別れたって聞いた。」
「そうだよ。」あの質問から高森の声はトーンが下がっていた。
「なんかよくわからないけど、噂されてるんだよ。居心地が悪い。」
「だから図書室に来てたんだ。でも来週には落ち着いてると思うよ。」
「そうなることを祈ってるけど、山口はどう思ってるんだ?」
「あんま良く思ってないんじゃないの」
「みたいだな。月曜日に山口と話した。
というか一方的にキレられてそれから口を利いてない。
まだ高森のこと好きなんじゃないか。」
「そうかもね。」
「でも別れたんだろ。」
「そうだよ。周囲からは一途とか言われてるけど、
好きじゃない人に何度も言われてもどうしようもないじゃん。」
「じゃあ何で付き合ったんだよ。」
「友達からも言われて仕方なく付き合ったけど、やっぱ好きになれなかったんだよ」
「…そっか。…ごめん。」
「…どうして謝るの?」
「ちょっと聞きすぎたかなって。話したくないことって誰にでもあるじゃん。」
「…私は大丈夫だよ。」
「そうか。でも山口になんて言えばいいかな。」
「こっちこそごめん。迷惑かけちゃって。」
「いや、安易に決定を受け入れたから。そのまま伝えても大丈夫かな。」
「私がなんとかしようか?」
「いや、いいよ。なんとかするよ。」
そう言っておきながらどうしていいのか分からなかった。
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