第15話 教室


教室に入ると、入り口のそばに座ってワイワイと話していた男女グループが、

僕の顔を一度確認すると、表情が固まりすぐに視線をそらした。

そして何事もなかったようにグループの会話に戻っていった。

席に着くまで、教室にあちらこちらで同様の光景が見られた。

中には含み笑いを浮かべるものもいた。


席に着くと、田中は昨日と変わらない様子で、

「どうゆうこと?」と尋ねてきた。

「こっちが聞きたいよ」

「はっ?あんたが高森さんと付き合ってるって話だよ。」

「なんでその話になるんだよ。」

「付き合ってるの?」田中は僕の問いには答えず毅然とした態度で続けた。

「…まぁ」この問いは僕にまだ違和感を与え続けていた。

「…そうなんだ」

「で、それが何?」

「あんた山口と高森さんの話知らないの?」

「なんのことだよ。」

「あの2人、2年の春休み前まで付き合ってたんだよ。」

「へぇ。そうなんだ。」

「そうなんだじゃないよ。山口が冬休み明けから3回告白して、その3度目でやっとつきあったんだよ。」

僕は今まで知らなかった山口の精神力に驚いていた。

「あ、もしかして、まだ付き合ってるのか?」

「違うわよ。山口が高森に修業式で振られたのよ。」

「よくそんなこと知ってるな。」

「あんた、ちょっと疎すぎるわよ。本当に彼氏なの?」

僕の本音と彼氏としての失言を田中は見逃さなかったが、勢いのまま会話を続けた。

「で、なんでその話になるんだよ。」

自分でもわかるくらいに安易な切り返しだったが、田中は続けた。

「詳しくは知らないけど、山口は高森のことをまだ好きみたいよ。

で一部の女子から一途だって、山口人気があったのよ。

ただ悪いけど、私は共感できないけど。」

「山口を勝手に上げて落とすなよ。」

「で、あんたはその一途な山口の恋敵で、山口好きの一部の女子の反感を買ったのよ。」

「それって、ただのはた迷惑じゃないか。」

「仕方ないわ。みんな恋バナが好きだから。まぁ一週間すれば落ち着くわよ。」

田中はそう言って、座り直し自分の机に体を戻した。

田中の言葉通り、次の日も、またその次の日も、

教室は僕にとって居心地の良いものではなかった。

授業が始まるといつもの雰囲気になるが、休み時間はできるだけ教室にいることを避け、図書室に行くようになった。


カフェで高森は山口について一言も話さなかった。

こちらが聞かなかったこともあるが、少なくとも僕と山口が部活で一緒だということはわかっていたはずだ。案の定、あれから山口とは口を利いていない。

高森にとってどうでも良かったのか、それとも触れられたくなかったのか分からない。電話することやメッセージを送ることも考えたが、来週になれば落ち着くと思い、とりあえず放置することにした。


そして週の最終日、昼休みに安息を求め図書室に向かうと受付には高森がいた。

会ったのはカフェ以来だったが、学校で挨拶する間柄でもないので、会釈だけすると高森はペンをとり紙に何かを書き、何も言わず、前回のように紙を渡してきた。


「学校帰ったら、連絡する」


図書室には数人の生徒がいたが、皆読書にみふけっているようで、

誰も気に留める生徒はいなかった。




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