第13話 距離感

高森はホットサンドをまじまじと見つめていた。

僕の視線に気が付くと、


「カレーとかオレンジジュースを頼むのかと思った。

ホットサンドを頼むのは予想外だわ。そんなワード知らない人だと思ってた。」

「そうか?」


初めてのホットサンドをいつものようにほおばると、

高森はきれいな所作でフォークとナイフを使い、

視線をホットサンドに向けながらチーズケーキを口に運んでいた。

いつも手で食べているホットサンドも、外食としてフォークとナイフを使って食事をすると、別の食べ物のように感じた。


「……。もう半分いる?」

「えっ!?いきなり彼氏面?」

「いや、食べたいのかなと思って。」

「欲しい!いいの!?」

「どうぞ」

「何か他人行儀だね。そこは「いいよ」の方が自然な気がする。」

「それはいきなり馴れ馴れしい気がする」

「ふ~ん。まぁでもありがたく頂きます。」

高森は自分の分のホットサンドをサッと切り分けた。


そのあとは細かい設定や学校での振る舞いなどを確認した。

だが、どれもこれも実感が湧かず「何とかなるでしょ」と高森は言った。

それ以外、特にやることもなく今日のところは解散の流れとなった。


「連絡は義務的に毎日しなくてもいいからね。必要なときにして。

今後も何かあれば詳細は都度詰めましょう。あっ、最後に大事な決定事項が。」

「何?」

「呼び方とか会う頻度がいきなり変わると、距離感が掴めないから、

そのあたりは成り行きでいいけど、告白はそっちからしたってことで統一ね。」

「はっ?」

「付き合う体なんだから損はないでしょ。」

「損はないはずだけど不本意だな。」

「ちょっと。それは失礼じゃない?」

「そうだね。ごめん。決定事項なら仕方ない。」

「いやいや、それもおかしい。」

「じゃあ何が正解なんだよ。」

「素直に「分かった」でしょ。」

「わかりました。」

「…まぁいいわ。」


支払は「これから、いろいろあると思うし。」と決定事項として高森が支払った。

それはそれでおかしいと意見を述べたが、決定事項だからと覆らなかった。

店を出ると、僕も高森も今日は疲れたと家に帰ることにした。


家に着くまでの間、こんなバカげた決定にワクワクした自分と、

こんな短絡的にあっさり受け入れてよかったのかと、

まだ少し残る不安を抱きながら、まっすぐ家に戻った。


まだまだ聞いておくことや考えることもあったのに、

部屋のベッドに身を預けると心身の疲れと、満腹感からゆっくりと眠りに落ちた。

夕食前に目が覚めてからスマホをチェックしたが、高森からの連絡は入っていなかった。日曜日も高森との連絡はなく、いつもと変わらない時間が過ぎた。


そして月曜日、学校の教室に着くと、少しの変化が起きていた。

こちらを見ながらひそひそと会話している女子グループに気が付いた。



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