第9話 図書委員


ふと目を覚ますと、頬が少し濡れていることに気づいた。

不覚にも机と頬の間に液体があることを認識し、

口元と頬をぬぐい、目をこすりながら、重い頭を机から上げた。

図書室で眠りについたことを思い出しながら、

首のストレッチを兼ねて周囲をゆっくりと見渡し、

時計を確認すると時刻は起床予定時刻の15分前を指していた。

周囲には誰もいないようで、図書室の静寂は保たれていた。


少し遠慮しながら静かに伸びをして、何気なく受付のカウンターに目をやると、

そこには高森の姿があった。その姿に驚き、なんとか誤魔化そうと息を静かに吸い込んだが、体には誤魔化しは効かず、そのまま咽てしまった。

静かにすることはもう無理だと悟り、そのまま治まるまで何度かせきを繰り返した。


これまでに、高森とはスマホでメッセージ交換をしていたが、最近は連絡をとっていなかった。

連絡をとりあっていた時期は、

メッセージの内容も相変わらずで、

「校庭の桜、キレイに咲いてたね。」

「給食の時流れてたあの曲好きなんだよね。」

「サッカー部の山口とテニス部の高橋が付き合い始めたらしいよ。」

といった話題だった。

学校の同級生の会話として、ごく一般的な内容だと思う。

ただ、僕にとっては全く持ってどうでもいい内容でしかない。


こちらからは

「そうだね」「そうなんだ」「へぇ~」

が常套句になっていた。これは一般的には無愛想だと思う。

でも仕方がないのだ。それぐらいに接点がなかった。

頻度はまちまちだったが、それでも高森は相変わらず、そんな調子の内容で以前はメッセージを送り続けてきていた。


僕はこのメッセージのやり取りに意味を見つけることはできなかった。

3年になってから、学校での会話は一切ない。メッセージだけのやりとりだ。

一見、好意的ともとれるが、距離感のつかめないこのやりとりに違和感さえ覚え、さらにこの二人きりの空間に、少しばかり戸惑っていた。


心身を落ち着かせ、もう一度、受付の高森の方に目をやると、

なんと高森が椅子から立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。

一瞬身構えたが、何も言わず、テーブルの上にサッと一枚の紙を置くと、

受付にまっすぐ帰っていった。


一見白紙だったが、その紙をめくると、


「今週土曜日、13:00、城本駅前の竹野書店」


と書かれていた。

その時、図書室のドアが開く音が聞こえた。

本を借りていた生徒が返却に訪れたようで、高森はその業務の受付を始めた。


なんとなく居づらくなったこの環境から逃れようと、

高森に渡された紙をカバンにしまい、手元にあった冒険小説を棚に戻した。

そして静寂を打破してくれた生徒に感謝し、図書室を後にした。












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