第8話 読書


図書室と言えば、自習か読書というイメージが一般的だと思うのだが、

僕は勉強が好きではない。

かといって勉強の成績は優秀者でも劣等生でもない。

可もなく不可もない、見事なオール3だった。


もう一方の読書は勉強に比べれば好きだ。

ただ当然のごとく、図書室にある本は、僕好みのジャンルや作者が揃っているわけでもなく、ここには最新の雑誌も漫画もない。

おそらくこれまで学校にあるべきものとして、

揃えられらであろう定番の作品群から選ばなくてはならない。


そのため、とりあえず図書室をざっと一周して、小説のコーナーから聞いたことのあるような作品を読んでみることにした。

しかし、歴代の作品の中には手に取ると明らかに、じめっとした匂いがする本もあった。

そのためなんとなく知っている作品かつ、

匂いのきつくない本を選ぶことに意外に時間を要した。

その結果、冒険小説を手に取り読み進めることにした。

他にもSFやミステリーのジャンルも候補に挙がったが、それらは僕の好みではないため、消去法で選ばれた。


それでも普段はあまり読まないジャンルということもあり、初めのうちは新鮮で面白くイメージを膨らますことができていた。

だが1時間を過ぎたあたりから、読み進めるスピードが落ちていた。

時々の言い回しが分からないことや、登場人物の多さに、

確認のため読み返したりすると、ページを戻すことが増え、ついに読むことに集中できなくなっていった。

そして最後には机に突っ伏してしばらく目を閉じて休むことに決めた。


図書室は家とは違い、飲み物や音楽など他の娯楽もない中では、気分を変えることも容易ではなく、残りの時間をどうしようか大きな問題が目の前に浮き彫りになっていた。

普段ならグラウンドから部活動の生徒の声や音が届くはずだが、

図書室は静寂に包まれていた。普段は図書室に来ない僕には、

これがこの空間では日常なのか非日常なのかはわからない。

ただ雨の音とエアコンの音以外は聞こえない。

もし勉強が好きであったら、好きな本を読んでいたらどれほど快適な空間だっただろうか。でも残念ながら今の境遇ではなかなか辛い環境だった。

だがその中で、唯一この環境で有意義な時間の使い方をひらめいた。


それはこのまま「眠る」ことだ。

睡眠にとって、この快適な環境なら容易に眠ることもできるだろう。

強いて言うなら、この慣れない匂いさえどうにかできればという

気持ちもあったが、それがベストな選択だと思えた。


万が一に備え、図々しくも念のため、受付の生徒に面談30分前の時間を伝え、

もし寝ていたら起こしてもらうようにお願いした。お願いされた側からすれば面倒なことだが、僕以外誰もいない図書室で仕事が一つ増えたところで負担はかからないだろうと罪悪感を少しでも減らすために自分に言い聞かせた。


元の席で再び突っ伏してから、ふぅ~と受付の子には聞こえない程度に大きく息を吐きだし眠る準備を整えた。慣れない場所で慣れない作品を読んだこともあってか、眠ることに時間はかからなかった。


そんなとき、図書室のドアが開く音が聞こえた。

僕はその音を聞き遂げたあと、静かに眠りについた。

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