第6話 朝食


家に帰りリビングに入ると、母が朝食の準備をしていた。

「あら。どこいってたの?」

「散歩」

「あんた、昨日部屋に戻ってすぐ寝ちゃったから、

夕飯、冷蔵庫にあるわよ」

「ありがとう」

「いま食べる?」

「うーん。そうだね。今食べるよ。」

冷蔵庫から昨晩の夕飯を電子レンジにセットし、

キッチンをのぞくと、母は食パンを用意していた。


母は最近ホットサンドにハマっている。

仕事が休みである土日の朝食や、簡単な昼食を作る際に、よく作っている。

と言っても、中身はおしゃれなカフェに出てくるような、

タマゴやチーズやハムといった具材ではない。

昨日の夕飯や余った食材で作るため、野菜炒めや生姜焼きのような、

独自スタイルのホットサンドを貫いている。


そんなホットサンドだが、男子中学生が知るはずもなく、

当初は出されるがまま食べていたが、

ある日見ていたテレビのホットサンド特集を見て、

初めて家にでてくるホットサンドと、世間一般のホットサンドの違いを知ることになった。家庭の味噌汁や鍋の具材などと同様に、この類の世間とのズレは何気ない会話で突如として姿を見せることが多い。このホットサンドも然り、どこかで笑いのネタにされる前に修正できて内心家でほっとした。


先ほど電子レンジにセットした昨日の夕食は、ハンバーグとキャベツの千切りだったが、ホットサンドの具材はそれらなのか、あるいはまた別の食材なのだろうか。

母は楽しそうにフライパンのホットサンドメーカーを火にかけようとしていた。

その横で電子レンジが鳴った。温めた朝食を取り出し、テーブルに着き食事を始めサッと食べ終えた。母がリビングテーブルに来たのと同時に席を立ち、食器をシンクに置いた。

「あんたも食べる?」

「ううん。お腹いっぱい。ごちそうさま」

何気ない会話だが、おそらく母も来月の三者面談や進路希望用紙の内容について

少し気にかけているのであろう。


これまで進路について、両親と話したことはない。

兄が両親と話しているのを横で少し聞いたことがあるが、

その会話に加わったこともない。

母も父がいない状況で少し話をしたい、

そして何かあれば調整役をかって出てくれるであろうことも想像がつく。

確かに話しておくべきかもしれないが、

朝からヘビーな話はさすがに気が乗らなかった。

そんな母の誘いをやんわり断り、部屋に戻った。


部屋に戻り、いつもテーブルに置いているスマホを探し始めると、

昨日ベッドから落ちたスマホのことを思い出した。

ベッド脇に落ちていたスマホを手に取ると通知ランプが光っていた。

そして徐々に昨日の記憶が蘇ってきた。昨夜の予想通り、高森からのメッセージはこちらが送って5分としないうちに帰ってきていた。さすがに返事が遅くなったことに申し訳ないと思いつつ、メッセージを確認すると、

「ところで、いま付き合ってる人っているの?」と書かれていた。

「そんなのいないよ」と数秒で打ち返した。


これまでとは違い、核心に迫る質問に少し手が止まったが、

事実を報告した。これ以降、高森からメッセージは返ってこなかった。









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