第5話 公園



部屋の時計を確認すると、朝の5:30過ぎを指していた。

のどの渇きを癒すため、ベッドの上で腕と体を大きく伸ばして、

12時間近く眠っていた身体を起こした。

たまに6:30頃に起きることはあるが、こんな時間に起きたことは数えるほどしかない。リビングに向かうとまだ誰も起きておらず、誰もいなかった。


お茶を飲もうと冷蔵庫を開けると、

おそらく昨晩の夕食一人分がワンプレートにまとめられ、ラップに包まれていた。

お茶をコップに注ぎ、ゆっくり口に入れると冷たさもちょうどよく、体を潤してくれた。夕食をレンジで温めるか、適当に食パンを焼いて朝食を摂ろうかと思ったが、まだそこまでの食欲はなく、一旦部屋に戻ることにした。


部屋にはテレビはない。今は本を読んだり勉強する気にもならない。

それでもこの珍しい時間に何かしたいと考えていると、静かな朝にわずかに響く、

外からの鳥のさえずりが気になった。散歩と言っても近所の公園くらいしか思い当たらなかったが、公園までは10分程度とそう遠くはない。


こんな時間だし、誰にも会わないだろうと部屋着のまま、上着と家の鍵を手に取った。

玄関に向かいサンダルを履き、外に出ると思った以上に外は明るくなっていた。

公園に向かう途中、犬の散歩をする60代くらいの男性や、40代くらいのスーツ姿の男性、コンビニ帰りらしき大学生と思われる4人組の男女などが街を歩いていた。

公園までたどり着くと、近くにあったベンチに座って一息ついた。

公園の木々は青々と茂り、鳥の声も家にいた時よりも大きくなり、数も増えていた。だがそれを決してうるさいとは感じなかった。やっぱり自分には一人が気楽でこれが合ってる。そう思っていた。



「何してるの?」

不意に声を掛けられ、思わず体がビクッと大きく反応してしまった。

振り返るとなんと田中がいた。

「なんでそんな驚いてるの?何かあった?」と心配そうな顔を浮かべている。

「いや、なんもない。」

「なんもないのに、こんな時間に中学生がいるのは変だよ。」

「ちょっと早く起きたから散歩に来ただけ。」

「ふ~ん。そっか」

よくみると田中は犬の散歩に来ていた。犬に詳しくない僕には犬種はわからない。ペットショップによくいる、小さくて茶色い犬だ。

犬を見ながら「名前なんていうの」と尋ねると

「モカだよ」

「へぇー。いつも散歩してるの?」

「いつもではないけど、たまに。試合どうだったの?」

「負けた」

「そっか残念。もう部活はあと夏だけだね。」

「そうだな。」

「返事がいちいち真面目だねぇ。まだまだこれから夏休みや文化祭、体育祭りもあるよ。もっと楽しみなよ。それじゃ私は帰るね。また明日!」

「また。」

会話を終え、周囲を見渡すと太陽もゆっくり昇り、街を歩く人や行きかう車も増えてきた。そっとベンチから立ち上がり、少しスッキリした朝は心地よかった。

家に帰るまでの道のりは、ポカポカした陽気に体が包まれていた。

ただ昨日の本田先生の言葉と重なり、少し距離を開けていたかった現実に引き戻された気がした。


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