第4話 スマホ


土曜日の試合後、帰宅するとまっすぐ部屋に戻って、

スマホを確認した。スマホには緑の通知ライトが光っていた。


学校や週末の部活にスマホをこっそり持ってくるやつもいるが、

そんなことはしない。真面目というよりも古風なのかもしれない。


通知には海外サッカーに関するニュースと、

2年のときのクラスメイトだった高森からメッセージが入っていた。


あまり気乗りしない状況から逃れるため、スマホは放置し部屋を出た。

洗濯物を出してシャワーを浴び、リビングに行き冷蔵庫を開けると、残り少なくなっていた炭酸ジュースをペットボトルごと、ゆっくりと一口で飲み干した。

「今日どうだったの?」リビングにいた母が声をかけてきた。

僕は「負けた」とだけ言った。


ふぅっと大きく息を吐き、部屋に戻る。

家族とは関係が悪いわけではない。でも今は存在を感じたくない。

部屋に戻るとベッドに身を預け、もう一度大きく息を吐いた。

気を抜くと両足が少しだるくなっていることや、

眠気と空腹で頭がジンジンすることに気づいた。


放置していたスマホを手に取り、高森のメッセージを確認する。

高森からのメッセージの内容は

「今日の試合どうだった?」

「新しいクラスには慣れた?」という内容だった。

おそらく部員からサッカーの試合のことを聞いていたのだろう。

2年生の3月に連絡先を交換して、何度かメッセージが来てやりとりしたが、

その時の内容ははっきり覚えていない。


高森とは2年の時一緒のクラスになったが、ほとんど会話をしたことがない。

高森はクラスや人前に出て話すようなタイプではなく、

比較的おとなしいグループにいた気がする。


何度かメッセージをもらっている高森には申し訳ないが、僕には話すことがない。

サッカーや受験の話ならできるが、そんな真面目な話を仲の良くない相手から聞きたがらないだろう。


ついさっきまで、高森へのメッセージを考えていたはずが、今日の試合のことや避けられない受験のことに頭の思考が切り替わっていく。

そういえば部員たちは部活を引退したらどうするんだろう。

サッカー部に限らず、部活に所属する全ての者はどこかで区切りをつけて受験モードになるのだろうか。

メッセージには今できる100パーセントの愛想をもって、

「今日の試合は0-1で負けた。」「クラスではいつもどおりだよ」

と返した。


あと半年後にはどんな学校生活になっているのだろう。

でもこの疲れ切った頭ではもう何も考えられなかった。


間もなくして、ほとんどマナーモードにしているスマホが震える音が聞こえた。

おそらく高森からのメッセージが返ってきたのだろう。

音のしたほうに手を伸ばし、スマホを手に掴もうとすると、

何かがベットから落ちる音がした。

その音を聞き、目を閉じるとそれを拾うこともなく、

僕はそのまますっかり眠りについた。


目が覚めると、ほのかな光が窓から部屋全体にこぼれていた。



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