第3話 試合

ワクワクした時間はあっという間に過ぎた。

さらに、60分の試合を終えたあとはモヤモヤした感情へと変わっていた。

土曜日に行われたサッカーの試合は惜しくも0-1で敗れてしまった。


試合は前半は0-0で折り返した。

後半も途中までは一進一退だった。

しかし、11人しかいないチームの課題はいつもここからだ。

11人しかいないため選手を替えることはできない。

疲れていようが、若干の打撲を受けようがそれでも試合に出ることができる。

裏を返せば試合に出続けるしかない。

そして同好会レベルの選手は3名を除いて60分を走り続けることはできない。

後半10分を過ぎた頃から徐々にその差が表れ始めていた。

選手を交代する相手チームに比べて、

球際やコンタクトプレーでは一歩、二歩と出遅れていく。


そんな苦しい中、後半15分に本田監督の迷采配が飛び出す。

3年生と2年生のポジションチェンジだ。

明らかにバテている2年生をDFにして、

足の速い3年生をMFにしろという指示が出た。


「??」


負けているわけではないのに、なぜ??

むしろ失点の危険が増すだけだと感じた。

案の定、相手チームはそこを突いてきた。

いや相手もそんなに考えてはいなかった。

相手もへばってきて、こちらの攻撃に大きくクリアするだけで精いっぱいだったのだ。


しかし、そのボールが相手の長身のFWに収まる。

それを受けて、相手MFの選手が走り出す。あまりうまくはないが、足の速い選手だ。それに後半から投入された元気な選手だ。

走り出した相手選手に対して2年生DFは必死に追うが2mほどマークが外れている。

バテているうえにこの年代での1年の差は大きい。

そして相手FWはシンプルにDFラインとGKの間にスルーパスを出した。

まるで初心者にもわかるような、教材に近いプレーだ。


「ザシュ」


相手MFは余裕をもって冷静にゴールにボールを蹴りこんだ。

ボールは勢いなくゴールネットに吸い込まれ止まった。

チームは失点し、スコアは0-1になった。

その5分後、試合は終わった。


試合後、2年生DFは責任を感じて泣いていた。

あのプレーでは2年生もGKを責めることもできない。

チャンスがあったにも関わらず、点を取れなかったチーム全員が悪い。

チームとして負けたのだ。


実力がなかった。それがすべてだが、負け方がすんなり受け入れられず、

さらに凹むという気持ちではなく、やり場のない気持ちだけが残った。

試合後、本田監督は「あとは7月の夏季大会だけだ。一勝しよう!」

そんな締め言葉で解散したあと、一部の部員は予定通り山口の家に遊びに行った。


残ったメンバーと2年生で帰り道を歩きながら反省会をした。

この反省会もメンバーがいつも同じだ。

そしてこの反省会は、だれもが真面目に思ったことを口にする。

だが誰も人を傷つけるような悪口は言わない。

ここで言いたいことをぶつけ合うのが強豪校なのだろうが、

そんなサッカーの知識も経験もないこのメンバーには、これが精一杯だった。

だってあくまで部活なのだ。


サッカーが下手でもいいのだ。サッカーができる能力が優遇されるのは、

部活とプロサッカー選手ぐらいだろう。

言いたいことを我慢して、同じチームなのにこのときはいつも疎外感を感じてしまう。

自分が望むものはここにはない。

でも中学にいる間はここが居場所だと思った。監督の采配やみんなの考えとは乖離があるが、

監督のあの言葉には賛成だ。


真面目な反省会メンバーは買い食いもせず、まっすぐ家に帰った。








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