第2話 明日

部室に着くと、すでに他の部員が着替え始めていた。

明日の土曜日はサッカーの春季大会の試合がある。

一般的に部活はリーグ戦ではなく、トーナメント方式で行われる。

負ければ即終了だ。勝つしかない。

うちの部活は強豪ではないどころか、驚くことに部員が11人しかいない。

こんな時代にサッカー人気がないうちの学校は世の中では珍しいほうだろう。


11人で特にサッカー好きというのは3人ほどしかおらず、部活内にも競争力がない。同好会レベルのうちの部活としては、リーグ戦の方が試合数が多く、混戦になれば、去年の秋季大会のようにタナボタで上位進出も狙えるだけに、リーグ戦を希望したいところだ。だが部活動での出勤に対する先生らへの日当は、驚くほど少ないと耳にしており、先述した以上にさらなる負担を増やすことはできないのだろう。


着替えを終えた部員11人が集まりウォーミングアップをしていると、

顧問の本田先生が来た。明日が公式戦ということもあり、

いつもは部活が終わる30分前に来ることに比べれば、普段より早く来た。

明日の試合に向けて監督として、先生も気持ちが高ぶっているのだろう。

部活の顧問の本田先生は、はっきり言ってサッカーがうまくない。

前任の上原先生もうまくはなかったが、サッカーを知っていた。

簡単ではあるが分かりやすい練習メニューや指導のおかげで、チームとしては学ぶことが多かった。しかし、経緯は知らないが上原先生は今年から放送部の顧問になってしまった。これを聞いたときは人事とは不思議なものだと生徒ながらに思った。


新任の本田先生のサッカーの実力は、部活内でも生徒ととほぼ変わらなかった。仮に12人目の選手として登録できるなら、同好会レベルのうちの部活では戦力にはなるがエースにはなれるほどではない。


練習も専門的なことはしない。ほぼ先生を含めて、6対6。シュート練習、ロングキック、ボール回しという定番メニューであった。明日の試合は秋季大会で0-2で敗れた相手だけに、勝てる可能性は十分にある。よくも悪くも誰も闘志など微塵にも見せないが、雰囲気は良かった。

練習はそのまま良い雰囲気で練習が終わり、明日を迎えることとなった。

先生からは「明日は8:30に学校に集合して、会場に向かう」

「しっかり食べて寝るように」と遠足前日のような言葉で締められた。

部員は「明日試合終わったら山口の家で遊ぼうぜ」と試合の先の予定を決めていた。傍から聞いていると違和感を持つが、これがこの部活の現状なのだ。

以前はさんざん言ってきたが熱量は伝わらなかった。もう慣れてしまった。

そんな中ただ一人、明日の試合に向けてワクワクしていた。

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