『LOVE BATTLE ARENA』
「まず一番大事なこと……。この学園は『恋愛能力』を至上とした、恋愛を学ぶための学校よ」
早速蔵之介は椅子からずっこけそうになった。
「それは分かってます」
というか、それを分かってないで入学したやつなんていないだろう。恋愛の恋愛による恋愛のための学校。恋ヶ峰学園の常識、大前提だ。
しかし、凛は「やれやれ……」というふうに首を振りつつ顔をしかめて、
「いや、分かってないわ。ここはあなたたちの思ってる以上に、恋愛の能力ですべてが評価される学校なの」
金のツインテールを、ファサ……と手でなびかせる。
「一応、国語・数学・英語なんかの授業もあるけど、『
「学校に来なくても良いってことすか?」
悠馬が驚きで目を見開く。
「ええ。現に2、3年生の中には学校にほとんど来ていない成績優秀者が大勢いるわ」
「一応中間・期末テストはあるが、それらは成績が低い者に対する救済措置的な役割として機能している」
凛の言葉を咲乃が補足した。とにかく『恋愛』というカテゴリーにおいて成績が優秀であれば、他の教科がいかに出来なくとも許されるという事か。しかし学校に来なくても良い、というのはさすがに常識外れ。
確かに、思った以上に極端な学校のようだ。というか、改めて無茶苦茶な学校である。
「すごい学校ですねえ……」
凛がほえーっ、と感嘆の声を上げていた。本当に理解しているのかちょっと不安ではあるが。
ともかく、そんな新入生たちのリアクションを見て、凛は「うんうん」と満足げ。続けて、
「それじゃあ肝心かなめの恋愛バトル……『LOVE BATTLE ARENA』の説明をするわよ」
手首に輝く銀色の機械をスッ、と掲げた。
このリストバンドのような、時計のようなよく分からん機械は、蔵之介たちも各々手首につけていた。というか、入学式の際に配られ、「学園の敷地内にいる間は常に着用」「破れば即退学」と脅された為、外すに外せないのである。
これがどうやら『恋愛で闘う』際に必要な装置であるということも、以前に説明を受けてなんとなく分かってはいた。
「それじゃああんた、ちょっとこっち来て」
凛にちょいちょい、と手招きされ、蔵之介が前へ出る。
「起動! モード『落とし愛』!」
凛がリストバンドに向けて叫ぶと、ブゥゥゥン……という起動音とともに、
『LOVE BATTLE ARENAへようこそ』
お互いのリストバンドから女性の機械的な音声が流れ出し、ホログラムにより文字が空中に映し出される。
宇佐美凛 HP1000 MP1000
巽蔵之介 HP1000 MP1000
「おおう……」
蔵之介は見たことのない高度な技術に、思わず感動してしまう。なんだこれ……。SFみたいでかっこいい……。
唯花や悠馬も同様に、空中に映し出された文字に、口を開けて驚いていた。
「わぁ……すごいですね」
「どうなってんだ、これ?」
「ふっふっふ……どや」
なぜか凛がドヤ顔をしている。さも自分の手柄のような顔をしているが、開発者は全くの別人である。
「このHPとMPというのはなんですか?」
「まあまあ、そう焦るんじゃないわよ」
蔵之介の質問に、ふふん、と得意げ。せっかちな犬に待てでもするかのように、楽しそうな顔で焦らしてくる。なんかだんだん腹が立ってきた。
「HPはハートポイントの略よ。RPGでいうところのまさにヒットポイント。
凛は少し思案した後、蔵之介に顔をぐいと近づけて来る。
「え? ちょっ……」
凛の可愛らしい顔が近い。しかもなんだか、頬は
困惑した蔵之介がなにかを言う間もなく、小ぶりの唇を艶っぽく開くと、
「……好きよ」
耳元で、色っぽくささやいた。
「はぅぅっ!」
そのとろけそうな声に、脳から背中にかけて電流が走り、ゾクゾクと震える。心臓が跳ね、脳が甘い甘い多幸感に包まれた。
『巽蔵之介、HPに120のダメージ』
機械アナウンスが響く。突然の行動に蔵之介の心臓はバクバクと暴れて鳴り止まない。驚きのあまり変な声が出てしまった……。顔がカァッ、と赤くなるのを感じる。
「ふっふーん! どう⁉︎ どう⁉︎」
当の凛本人も、顔を真っ赤にして、ごまかすように指でぐるぐると髪を
「こんな感じで、相手を誘惑すればHPを減らせるわ」
「なるほど……。つまり相手に魅力を感じてしまったらHPが減る、というわけですね」
唐突すぎて動揺したが、おかげでHPなるものが理解ができた。ようは普段他人に感じるドキドキ、ときめきといったあやふやなものを、数値で可視化したものなのだろう。
「このリストバンドが脈拍や体温、脳波なんかも計測して、的確な数値を出してくれるらしいわ。詳しいことはよく分かんないけど」
「えっ? すご……」
思わず手首に巻きついている機械をしげしげと見つめる。現代技術で本当にそんなことが可能なのだろうか。理屈は分からないが、恐ろしく高度な技術である。正直、個人的にかなり興味がある。
「じゃあMPっていうのは?」
同じく手首の機械をまじまじと見ていた悠馬が尋ねると、凛が蔵之介に歩み寄る。ま、また甘い言葉を吐くのか? 蔵之介は思わず身構えてしまう。
凛の端正な顔が、再び目の前にまで近づく。濡れるような瞳は上目づかいで、桜色の唇からは熱を持った吐息。なんだか蔵之介まで変な気持ちになってくる。あれ? この先輩、こんな可愛かったっけ?
ごくり、と喉が鳴る……。
徐々に近づいてくる凛の小さな顔。蔵之介は、吸い寄せられるようにそのキュートな唇へ……
「なにその眼鏡? だっさ」
「ウグワァーーーーー!!!」
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