かくして第二部室棟へ②

 第二部室棟は外観の通り、中身も古めかしく、やや薄暗かった。正面玄関から入り、外用の靴をスリッパへと履き替え、ところどころ塗装がハゲかけている階段で二階へと上がった時点で、蔵之介が抱いた感想である。

「この棟に他のサークルはいないんですか?」

 先頭を歩く咲乃へと、唯花が尋ねる。二階の廊下には、左右に六つずつ扉が並んでおり、それぞれが部室なのだろう、各扉にはポスターが貼ってあったり、看板が並んではいるものの、人っこ一人いないどころか、物音一つ聞こえなかった。唯花が疑問に思ったのも当然かもしれない。

「一応他のサークルもいるが、ほとんどが空き部屋だ。第二部室棟には私たちを含めて、四つのサークルしかいない」

 咲乃は薄暗い廊下を歩きながら、淡々と答える。

 先程まで賑やかなサークル説明会にいたせいもあって、しん、と静まりかえったこの静寂と暗さが少々不気味である。咲乃もほとんど無言で進むだけであり、蔵之介は忘れかけていた不安がふつふつと湧き上がってくるのを感じた。

「おい、やっぱり怪しくねーか……?」

 それまでなにも言わず歩いていた悠馬が、蔵之介へそっと耳打ちをしてくる。

「静かすぎる」

「こ、ここまで来て怖気付くな。い、意気地のないやつめ」

「震えてんじゃねーか……」

「誰が震えて泣きそうだって⁉︎ バカも休み休み言え!」

「そこまで言ってねーよ!」

「なにを騒いでるんです……?」

 ぎゃあぎゃあ言い争っている二人へ唯花が呆れた目を向けている内に、咲乃は廊下の終点、一番左奥の扉の前まで歩み寄ると、そこで立ち止まった。

「ここだ」

 三人はぴたりと会話をやめ、同時に扉の方へと目を向ける。

 他の部室と同じく古びた扉。その扉にガムテープでとめられた厚紙には、手書きで『モテモテハーレムを研究する会』と書いてあった。見れば見るほどダサい名前である。

(ん? 下に何か……)

 その張り紙の下に隠れるように、なにかプレートのようなものが張り付いているようだったが、確かめる間もなく咲乃が扉をノックしたため、蔵之介は慌ててそちらに注意をむけた。

 扉が、軋む音をたてて開いた。

 開けた先にある、部室内。

 十畳以上だろうか、意外と広々としたスペースに、机、椅子、ソファ、本棚やテレビ、はたまた冷蔵庫といったものまでが並び、いたるところにぬいぐるみや本、ゲーム機などが乱雑に転がっている。

 しかしそれらを通り越して、部室に入った三人の目に飛び込んだのは、一人の女生徒。

 小柄なその女生徒は、明るい金のツインテールをなびかせ、ミニスカートから覗く脚には純白のニーソックスが輝いていた。まつ毛が長く、パチリ、と愛らしい目は、しかし怒ったように吊り上げられ、小さく淡い桜色の唇は、不機嫌そうに真一文字に結ばれている。

 そしてその女生徒は……なぜか椅子の上に仁王立ち、ビシィッと蔵之介たちを指差すと、

 

「べ、別に、あんたたちのことなんか歓迎してないんだからね⁉︎」

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