サークル説明会で会いましょう
「おはよーございます!」
次の日から唯花は蔵之介や悠吾とよくつるむようになった。毎朝の爆音挨拶が寝不足の頭によく響く。
「上野先生の声ってなんであんなに眠くなるんでしょう…」
「分かる! 気付いたら気を失ってるよな」
己の愚行を他人のせいにすり替える二人は、授業の合間合間に蔵之介の席へ集まってはお喋りをする。
「……なんでお前たちは僕の席に集まるんだ」
昼休みは一緒に飯を食い、放課後はエランドールで他愛のない話をした。
「宇宙の外側ってどうなってるんでしょう……?」
「五次元ってすごいらしいぜ……」
まるで男子中学生である。しかし、
「バカなお前たちに分かりやすく教えてやろう……」
蔵之介もそういう話は大好きだった。
唯花は明るく人懐っこい性格で、少女のように無邪気に笑い、少年のように大げさに動く。
「蔵之介くんは変な人です」
唯花はよく、なぜか嬉しそうにそう言った。
「きみにだけは言われたくない」
蔵之介も度々そう返した。しかしそう返されるたびに、唯花はさらに嬉しそうに笑うのだった。
それから数日が経ったある日の放課後。
ここ数日、恋ヶ峰学園全体が賑わっていた。サークルの説明会、新歓が行われているためである。
恋ヶ峰学園では、部活、研究会、同好会、挙句になんと委員会に至るまで、すべてが生徒によって設立され、生徒主体で運営されているらしい。それらの団体を総称してサークルと呼び、もはや誰もその総数が分からないほどに数多く存在しているとか。
何人かで固まり、期待に膨らんだ目で教室を後にするクラスメイト達を横目に、悠馬が口を開く。
「数研はダメだったけど、どっかサークルには入るんだろ?」
「……ああ」
蔵之介、悠馬、唯花の三人は今日も、もはや渋谷のハチ公像前ばりに集合場所となりつつある蔵之介の席前へと集まっていた。
蔵之介は『天才による今日の授業復習用ノート』をぱたりと閉じながら答える。
「この学園はあまりにも分からない事だらけだからな。情報交換の出来る場が欲しい」
実際『LOVE BATTLE ARENA』のシステムについてほとんどよく分かっていなかったし、学園の成績評価方法も謎である。学園側からは入学式の際にざっくりと説明がされただけで、ほとんどの生徒はポカン。あれですべてを理解出来た新入生はいないだろうと蔵之助は思う。
「情報交換の場ってお前…」
悠馬が「またか」とでも言いたげに、しかめっ面を浮かべた。
「もっと楽しい考え方をしようぜ」
「そうですよ!」
ぴょこん、と横から唯花も顔を出す。
「楽しみじゃないですか、サークル! 相当いっぱいあるみたいですし」
手にはホームルームで担任から配られた「新歓案内」が握られていた。冊子には一部のサークルがピックアップされ、その活動内容が楽しげに紹介されている。しかし、
『さようなら』
サークルのこととなると、どうしても、あの日のことがフラッシュバックする。変わってしまった先輩、冷ややかな視線、部室の隅に打ち捨てられた数学の教科書。
考えるな、と思えば思うほどドツボにハマり、抜け出せなくなる。ふとした瞬間にグッと胸の底に
「唯花ちゃんはなんか入りたいサークルとかあるのん?」
悠馬の言葉で、ハッ、と蔵之介の意識は現実へと引き戻された。
唯花を見る。ここ最近つるんではいるものの、実は彼女がどんな活動に興味があるのかとか、どんな部活を今までやってきたのかという事を、蔵之介は一切知らない。三人で話す機会が増えたが、彼女がよく話すことといえば、昨日の夕飯はなにを食べたかとか、今日のお昼はなにを食べるのかとか、おやつはなにが食べたいかなどである。
……飯ばっかじゃねーか。
「うーん、そうですねぇ…」
唯花は新歓案内の紙を眺めながら、細くて可愛らしい眉をちょっとひそめた。
いつになく真剣な眼差し。いつもは、ほあーっと口が開きっぱなしの唯花が、ここまで真剣は表情をするのはレアである。一体どんなサークルをセレクトするのか。蔵之介もつられて真剣な表情になるが、
「食べ歩き同好会。中華料理研会。……あ、おやつ食べ合わせ研究会なんかも良いですね。でも本命はやっぱりラーメン…」
「やっぱり飯ばっかじゃねーか!」
思わず新歓案内を机に叩きつける。ちょっと期待した僕がバカでした。
「この学園、ご飯系だけでも相当数のサークルがあるから迷っちゃうんですよう」
ぬへへ、と新歓案内の紙によだれでも垂れるんじゃないかと思うほどゆるゆると顔が溶けていく食いしん坊に、蔵之介はイラッとして呟く。
「太るな……」
「はい許しません! 戦争です!」
悠馬はギャアギャアと言い争う二人を、なぜか「うんうん」とにこやかスマイル、温かい目で見守り、やがて二人が落ち着いた頃にやんわりと切り出した。
「まあ、気になったとこを適当に話聞いていけば良いべ。時間もいっぱいあるだろうし」
その言葉に唯花は「さんせーです!」と声を上げ、蔵之介も「ふん」と特に否定もしなかった事で、三人の意見はまとまった
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