ジャンボいちごパフェ(930円)
「私は1年B組の
女子が一人で食べきるにしてはあまりにも大きすぎるパフェ(930円)に目を輝かせながら、少女はそう自己紹介をした。
それを一人で食べるつもりなのか……? 見ているだけで胃もたれを起こしそうになり、蔵之介は思わずお腹の辺りをうっ、と押さえる。
たまたま見つけた「喫茶エランドール」は、恋ヶ峰学園から最寄り駅までの通学路を少し外れた住宅街にこじんまりと立っていた。全体的に木目調のデザインで統一されたその店は、他に恋ヶ峰学園の生徒もいない。穴場的なスポットとなっているらしくて、非常に居心地が良く落ち着いた。
「知ってるよ。同じクラスだよね」
「ふが⁉︎ ふがふがふが……」
「飲み込んでから喋ってもろて……」
悠馬の言葉に、リスみたいに口いっぱいに頬張ったパフェをもごもごと慌てて飲み込むと、
「そうだったんですね。ごめんなさい、まだクラスメイトの顔全然覚えてなくてですね…」
しゅん、とスプーンをくわえながら申し訳なさそうに上目づかい。そんな仕草のひとつひとつが愛らしい。ちなみに、クラスメイトに関しては蔵之介もまったく覚えてない。
「へーき、へーき。人数多いもんな」
悠馬は気にした様子もなく、人懐っこい笑顔を浮かべている。
「俺は嘉神悠馬。こっちのぶすっとしてるのが…」
「巽蔵之介だ」
対して、蔵之介はこの得体の知れぬ少女を警戒していた。蔵之介の恥ずかしい叫びを盗み聞きしただけでなく、急に手を取り「同士!」である。ついでに頼んだパフェはおそろしく巨大だ。デカ過ぎんだろ……。
なにを考えているのかが、まったく分からないこの少女に、しかめっ面で怪訝な目を向ける。僕はお前を信用していないぞ、と。しかし、
「ゆうま…くらのすけ…」
唯花はそんな蔵之介の視線には気が付かない。ふごふごとパフェを口に含みながら反芻するように二人の名前を復唱すると、
「覚えました! これからよろしくお願いしますね!」
キラキラと眩しい笑顔。改めて、美少女である。ほっぺについた生クリームすらも、彼女の愛嬌を彩るアクセサリーのように見える。
恋ヶ峰学園には美男美女が多く、教室のクラスメイトや廊下を歩く生徒、そこかしこでかわいい女子を見かけはするが、唯花はその中でも一番のように思えた。思わず唯花へ抱いていた疑念の心も、一瞬消えてしまいそうになり、ハッとする。
危ない危ない……。この可愛らしい笑顔には騙されないぞ。こういう女性にホイホイついていくと、きっと
蔵之介はだいぶ
唯花はパフェを一口食べると、んー♡ と幸せそうに、まさにほっぺたが落ちそうなほどふにゃ、と顔を綻ばせる。
「おふたりは昔からの知り合いなのですか?」
「そ。中学ん時からのニコイチ」
「腐れ縁だ」
照れんなって、と肩に手を回してくる悠吾の手を払い除ける。
「良いですねぇ、親友…」
「腐れ縁だ」
そこは間違えるな、と釘を刺しておく。
「……んで、そもそもなんで蔵っちは屋上にいたの? 数研はどうだったん?」
ぐっ、と蔵之介は言葉に詰まった。思い出したくない記憶が、小野寺の冷たい言葉がフラッシュバックする。いや、本当は片時も頭から離れていない。覚めない悪夢みたいに、蔵之介の後ろにぴったりとくっついている。
変な汗がにじむ。呼吸が難しい。大丈夫だ。落ち着け。
努めて冷静に、数研での一幕を話した。出来るだけ自然に、なんでもないことのように上手く話せた……と、思う。話している間、二人がどんな顔をして聞いていたのかも、よく見えなかった。
ただずっと、胸の奥の方は痛くて痛くてたまらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます