第16回作者人狼 光 眠 美
視界に美しい光があふれる。赤とか緑とか。黄色もある。
どん。ぱぁっ。
遅れて音が響く。
「綺麗だね」
「うん」
夜空に咲く花のごとく、とはよく言ったものだ。
花火と言えば夏の風物詩と思われがちだが、冬に見る花火も空気が澄んでいて美しさが際立つ。12月の某日、私は恋人と共に近所で行われている花火大会を眺めていた。
「寒い」
「ん」
隣にいる彼から暖かい何かが渡される。
「ありがと」
「100円な」
「お金とるのね」
「嘘嘘冗談。さっき買ってきた缶コーヒーだからやるよ。ブラックだけど」
「私ブラック飲めない」
「そういうと思って微糖も買ってきてる」
「有能」
どん。ぱぁっ。
「ねぇ。例えば明日世界が滅ぶとしたらどうする?」
「なんだよ藪から棒に。そうだな、寝る」
「意外。やりたいこと全部やる系だと思ってた」
「そんな短時間でできることじゃないからな」
「じゃあ一週間後に世界が滅ぶとしたら」
「んー。寝る」
「えー。じゃあ一か月後」
「その時は」
どん。ぱぁっ。
「今、なんて?」
「ん?何も」
「なんて言ったのよ」
「寝る」
「ぜっっっっっっっっっっっっったい違った」
「全部集約すると寝るってこと」
彼は缶コーヒーを開け、のんびりと飲んでいる。
「調子がいいんだからまったく……」
どん。ぱあっ。
「わお。大きいね」
「んでもって綺麗だ」
彼の肩にこつん、と頭を預ける。
「どうした」
「別に?」
急にこうしたくなっただけなのだ。そう、急に。
「本当に意味なさそうだな」
彼が腕をそっと肩に回す。
「で、何が望みだお姫様」
「……っ。面白かった、もう一度言って」
「な・に・が・の・ぞ・み・だ・お・ひ・め・さ・ま・!」
「お姫様て。何、君、私のことをそんなふうに思ってたの?」
ふふふっ、と笑う。
「そりゃ」
どぉん。ぱああぁっ。
今までで一番大きな音が響いた。
「今度は聞き逃さなかった」
「嘘だろお前」
「ん。ありがとね。元気出た」
「はぁ。まぁいいだろ。ほら、今ので終わりみたいだぞ」
「はぁい。じゃ、帰ろっか」
帰り道を二人で歩く。すこし、明かりの少ない道を選んで。
「なにニヤニヤしてんだよ」
「別に?」
空に広がった星の下、私はずっとさっきの言葉を思い返していた。
「そりゃ、誰よりも大切だからさ」
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