第14回作者人狼 魔女
「ねぇ、知ってる?私ね、実は魔女なんだ」
「はいはい、そんなこと言わなくてもマユはいつも通りかわいいよ」
「信じてないなぁ!本当に呪いくらいならかけられるもん!」
「んじゃかけてみてよ」
「危ないからイヤ」
ぷくっと顔を膨らませてそっぽを向く。彼女は白里舞雪。あまり雪の降らない地域にも関わらずそう名付けられたのは、生まれた日が8年ぶりの雪の日だったからだそうだ。
ちなみに俺は舞雪と同じ日に、同じ病院で生まれた幼馴染みだ。名前は望月悠木。名前の由来は『適当に思いついた名前』だそうだ。まぁ、別に嫌いではないのだが。
「というか、高校2年生になってもまだ魔女とか信じてるのかよ」
「だって事実だし?」
「はぁ…… 」
と、まぁ何となく思考が幼げというかゆるふわというか。天然…… ではないけれどそれに似た可愛げがある。容姿も比較的小柄な方なので、振る舞いと合わせて時々中学生に間違えられることさえあるとか。『周りの世界が大人びてるだけだもん!』とは本人の談。
「悠くんこそ、この前までサンタさん信じてたの知ってるんだからね!」
「ちょっと待てそれは5年前の話だぞ!?」
「この前じゃん!」
「まだ小学生だよ!」
ははは、と笑い合う。
「やー、しかし早いね。キミと出会ってからもう17年?」
「出会ってというか同じ病院で生まれてるししかも近所だから出会うって言う概念薄いけどな」
「じゃあ付き合ってからは?」
「……何年だっけ?」
「もう4年目だよ!」
「なんで覚えて…… あ」
なんでこんな細かいことだけは覚えてるんだコイツは。
「”今日で“4年目だろ?」
「ふふ〜ん、正解!」
嬉しそうに飛び跳ねながら俺の周りをくるくると回る。
「…… ちなみにこれちゃんと答えられてなかったらどうなってた?」
「キミのために焼いたリンゴタルトは私が独り占めしてた」
「可愛いかよ」
発想がただただ可愛い。舞雪の頭を撫でてやった。
「うゅ……」
照れたように舞雪がすり寄ってくる。そっと額にキスをした。
「今年もよろしくね」
「当たり前だ。一体何年の付き合いだと思ってやがる。17年だぞ」
「あー!さっきは17年って言ったらそういう意識は薄いって言ったのに!!」
「出会いって言う概念の話だ!!事実的には17年で正解だろ!」
「その理論ずるい!!」
なんてことない、ただの平和な日常会話。とても幸せな日々は、当たり前のものになっていた。
──────────────────
昼休み。弁当を食べ終え、昼寝をする至高の時間。
…… を邪魔するクラスメイトは、今日もやってくる。
「よ、悠木。姉とはヨロシクやってっか?」
「そりゃどういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。高校生って言ったらsむぐっ……」
「一旦黙ってろ」
彼女は白里舞花。舞雪の双子の妹である。舞雪と比べて強気で、男子と普通に絡めて、そして舞雪曰く首筋が弱いらしい。
「むぐむぐ……ん、うめーなこれ」
「それは購買部で買った今日のおやつだ。今日は7限まであるから……ってああああああああ!!?」
「ん?どした」
「なんで食ってるんだよ!!」
「悠木がオレの口に突っ込んだんだろ」
そういえばそうだった。何やら不穏な単語が聞こえそうだったから反射的にソーセージエッグサンドを犠牲にしてしまった。お前のことは忘れない。
「んでそうそう。昨日舞雪のヤツが顔真っ赤にして帰ってきたから何かやったんかなって思って。舞雪のヤツ、ぼーっとしてすごくふわふわした感じだったからさ」
「いや何もしてない。というかぼーっとしてるのもふわふわしてるのもいつものことだろ」
「そりゃそうだわ」
つまらなさそうに舞花はソーセージエッグサンドを食べている。というか逆に何かしてたら聞きたいのだろうか。
こうしてなんでもない日常は過ぎていくのだった。
──────────────────
「悠くん」
「どうした?」
「……撫でて」
甘えたい時期なのか、舞雪はいつも以上に擦り寄ってきた。高校3年生の冬も終わり、もうすぐ春になる。どうせ同じ大学に進学するのだが、学部が違うのでこうやって甘えたがり屋になっている。
「ありがと」
舞雪は心地よさそうに欠伸をしている。
「舞花は?」
「私がいるところで他の女の子の話する?」
「他の女の子言ったってマユの妹だろ」
「ふふっ、言ってみたかっただけ」
舞雪は微笑んで寄りかかってくる。
「えっとね、県外行くんだって」
「へぇ。ということは離れ離れなのか」
「まぁね。舞花、やっていけるかな」
「大丈夫だろ、多分」
「寂しがってたよ?『悠木のヤツ、いざ離れるとなるとつまんねーんだよな』とか言ってた」
「一番言いそうにないセリフなのに想像できるな」
「さすが姉妹だと思った」
「そりゃどうい……いや、やめておこう、
なんとなく察した」
これは多分聞いちゃいけない。舞花のためにも。直感的にそう思った。
「そういえば、悠くん大学入ったら一人暮らしって言ってたよね」
「そうだけど」
「……一緒に住んでも、いい?」
「いいよ……って、は?え?何を言ってるの?」
「だって!一人暮らし寂しいんだもん!」
舞雪がじっと見つめてくる。うぐ。まぁ……それでいいならいっか……。
「別にいいけど、家賃は半分ね」
「やったー!悠くん大好き!!」
舞雪が腕にしがみ付いてくる。
「……そういえばさ、昔、私って実は魔女だって話したよね」
「まだ言うか」
「アレね、実はウソ。呪いなんてかけられるわけないじゃん」
「知ってたわ」
「えっ!?あんなに完璧なウソついてたのに!?」
「どこが完璧だ。まず呪いかけてみてって言ったら無理って言ったじゃんか」
「危ないからイヤって言ったんですー!!」
「どっちも同じだよ!全くもう」
──────────────────
何度も何度も、同じ夢を見る。
舞雪が車に轢かれて。
吹っ飛んで。
血塗れになりながら、かすかに呟いている。
「悠くん、────」
死の間際に咄嗟に出る言葉が、
信じられない
信じたくない
目の前で
息が消えていく。
──────────────────
「おい、悠木、大丈夫か?だいぶうなされてたぞ」
「ん……ああ、舞花か……」
体を起こし、深呼吸をする。
「……」
「どうした?悠木」
「夢を見ただけさ。……なんでこうも焼き付いて離れないんだろうな」
「……っ。舞雪ね。お前、姉のこと本当に大好きだったもんな」
「生まれた時から一緒だったから……って思ったけど舞花もそう変わらんかったな」
舞雪と同棲し始めてたった数日のことだった。
彼女は交通事故に遭い、俺の目の前で息を引き取った。約束していた将来も、心地よい時間も、何もかもをたったの一瞬で失くしてしまった。
彼女は死の間際に俺にこう言ったのだ。
大好きだよ、と。
本当にそう言ったかどうかは確かではないのだが、唇の動きはそう見えた。
「魔女じゃないとか言ってたし呪いも使えないって言ったけどさ」
その言葉は、呪いのように。
俺と舞雪を結びつけているのだろう。
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