第十三回作者人狼
「ドウして?どうシテ邪魔ヲすルの?」
「決まってるだろ……お前が大切な家族だからだ……!」
「バカなヒト。ワタシはトあル一人ノ博士に造られた生命。家族なんテ、モウとっクの昔ニ活動ヲ停止しタの」
4本の腕を持つ少女 ── 正確には三拾弍型特殊格闘戦闘人形F型 ── は腕を鋭い刃へと変形させる。
「ワタシは、人間や人形ヲ壊スためニ造らレタ殺戮人形ナの。一人残ラズ、殺シテ、殺シテ、殺シ尽くス!そウ命ジらレタの!!!」
── 話は数年前に遡る。俺は壊れたF型人形を拾ったのだった。なぜ拾おうと思ったのかは分からない。ただ、なんとなく一人暮らしの寂しさを紛らわせようとしていたのかもしれない。幸い、人形屋である俺は人形修理など造作もないことであった。
「これでよし、と。起動できるか?」
「……再起動。マスターの記録に破損を確認。認証不可。マスターを再認定します」
「わお、動いた。さて、俺が新しいマスターだ。名前はレウィン。人形屋だ」
「マスター承認。レウィン様、私は今日から貴方様の刃となります。さぁ、殺戮の命令を」
「あー、いや戦わなくていいぞ。俺はただの人形屋だ。人形を修理するのが仕事でな。戦いとは縁のない生活さ」
「しかしマスター。私は三拾弍型特殊格闘戦闘人形F型です。壊すこと、殺すことが仕事なのですよ」
そう言うと、彼女は自分の腕を鋭い刃へと変形させる。
「……ん、その刃ちょっと見せてもらえるか?」
「は、はいマスター。どうぞ」
壊す、殺すための人形と言われるだけある。金属ですら切り裂けるほどの鋭さと硬さ、丈夫さを兼ね備えているようだ。
「……マスター?」
「なぁ、これ高周波ブレードだったりするか?」
「はい。ブーストモード起動!」
刃が高速で振動を始める。
「なるほど。よし、今度から仕事の手伝いをしてもらうか」
「殺戮ですか?」
「あぁ、まぁ壊すことに違いはないな。しかし、細かい破壊作業を頼むことになりそうだが問題ないか?」
「問題ありません。人間を効率的に壊すために目標地点を寸分違わず斬り飛ばす精度を有していますので」
なんだかなぁ、と思いつつも試しに人形修理で出た端材を引っ張り出してくる。
「で、この線に沿ってこの端材を切断してくれないか?」
「承知しました、マスター」
数歩離れて仕事ぶりを見る。目のレンズの焦点を合わせ腕を上げる。しゅん、と振り下ろされる刃。そこには、線の通りに切り取られた端材と、真っ二つになった作業机があった。
「ぎゃあああああああマジかよ!?俺の作業机があぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「マ、マスター?私、何かしてしまいましたか?」
「ああうん、そうだな……よし、お前のために作業台を用意しようか……」
── ということがあり、この少女を自らの仕事の補佐へとしたのだった。しかし1ヶ月ほど前、行方不明になった。マスターである自分の命令に背くことはあり得ないし、連れ去りにしても戦闘能力の高い彼女を無力化するなど考えられない。第一、荒らされた形跡がないのだから、彼女が自ら出て行ったことは自明である。
「なぜ出て行ったんだ?答えてくれ!」
「あナタはわタシのマスターでハありマせン。答えル義務ハ無シと判断しマシタ。わタシのマスたーは△※×□?◯、たダ、タだヒトり……いエ……わたし……わた……し……は……」
目のライトが点滅する。
「理論エラー、理論エラー。マスターの情報が混在しtttていmあす。情報統合不可。どチらの命令ニしたがウべきなノか……解決プログラム起動……回路情報取得、決議開始……完了。ワタしは、全ての人間、および人形を抹殺シ、自壊プログラムを実行シまス。最優先目標、エラーの原因ト思われル人間。距離、13m43cm23.7mm。排除kkkk開sssssss」
「……ごめんな」
俺は彼女の自壊装置を起動する。全ての人形には、制御不能になった人形を強制的に止めるための遠隔操作デバイスが存在する。
「強制自壊プログラム起動申請を確認、拒否、否定否定否定否定否定否定否定否定否定。……強制承認。回路情報抹消。機能停止まで10……9……」
俺は徐々に機能を停止していく彼女をじっと見つめていた。
「また、会いに来るさ。それまでおやすみ」
「sss……2……t…………………………──────── 」
彼女は機能を停止し、音もなく崩れ落ちた。
俺はそれを抱え上げ、人形工房へと連れて行った。
俺は、人形屋のレウィン。人形修理のプロである。
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