作者人狼第十三回

「殺してぇ。世界の全てを殺してぇ」

「なんて?今日も荒れてんねぇ」

「んぁこちとらこれが平常運転だぞ機嫌がいい日の方が珍しいわクソがあーーーー殺す殺してやる全人類呪ってやる具体的にはシャワーのお湯が突然水になる呪いと夕方6時に炊けるはずのご飯が炊飯器の設定ミスで朝6時に炊ける呪いかけた今から有効だかんな」

怨嗟の言葉を吐き出し続ける機械こと目の前にいる腐れ縁のこいつは、特に病んでるというわけでもなくただただ人間が嫌いというか生きることに執着を持たない男だった。

「よく息続くよなそんなに一息で喋って」

「早口言葉だきゃあ得意なんだわ」

気怠げに、ふっ、と笑う。

「んでどうしたんだよ今日は。あとこれ頼まれてたやつ」

「おっざっすざっす。いやー美味ぇんだよなこれ」

エナジードリンクの缶を開け、豪快に飲み始める。

「いやさ、今日も人類は愚かだなって」

「何の脈絡もないがまぁ話を聞いてやろう」

「大会に出す文章誤字ってた」

「お前は愚か」

「俺もそう思う」

ため息をつきながら紙の束を放り投げてきた。

「『祈』を全部『折』って書いてた」

「ただのバカ」

「書いてる時『なんかちげぇよな……』とは思ってたけど調べずに書いてたら昨日パイセンに指摘されて気づいた」

「調べなかった自業自得だろ」

「気づかなければ幸せだったことってあると思うの」

「気づいた先輩は偉いわ」

「人類は愚か」

「お前が愚か」

「なので」

「はい」

「別のやつ書いた」

そう言うとまた紙の束を投げて寄越す。

「読むのめんどい。長い。3行でまとめて」

「俺、全員、殺す」

「なるほどつまり俺強い無双系の作品ね」

「ちげーよ。理性を限界まで吹っ飛ばしたらどこまで残虐な話かけるかなって試した結果だよ」

「……それ提出したら精神鑑定に出されるだろ悩みあるなら聞いてやるぞ?ねぇな」

「んで深夜テンションだったから没にした。完結させるためだけに人物全員殺した」

「なるほど」

「んで次がこれだ」

また紙の束が飛んでくる。

「何これ、『サボテンの気持ち』?」

「サボテンのIQが2だか3だか忘れたけどそのくらいの知能レベルで書いた」

「本文『きょう あめ やば』おしまい。いや待てこれ提出する気かよ」

「ダメかやっぱり」

「当たり前だろ」

「というわけでこちら。どどん」

紙の束を滑らせてくる。

「吐き気を催しながら書いた人間のまっさらピュアな部分だけを摘出して書いた純愛ピュアピュアストーリー」

「いつも人類が愚かとか言ってるヤツの作品じゃねぇな」

「失礼な、こう見えて意外と純愛書けるんだぞ」

抗議された瞬間、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。

「おっとマジか。んじゃ放課後もここで」

そういうと彼は階段の手すりを滑り降りていった。

「まったくなんで納得いかない作品を処分するのに俺のところに持ってくるかねぇ」

俺は紙の束をまとめていつものようにシュレッダーにかけた。

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