第十一回作者人狼~「愛」~

前略。俺は魔王に屈した。

いや、仲間の魔法使いや剣士、治癒術士もいたし、負ける要素なんてなかったはずなんだ。実際、かなりの激戦を繰り広げたわけだし。俺以外。

仲間たちの素晴らしい活躍はこの際割愛する。

なぜ屈したか。それは……

「勇者よ。お前に力と世界の半分をやる。共に世界征服を目指そうではないか!!」

「え?マジで?やる」

「……ん?」

「あの……」

「勇者お前!?」

「よかろう。ではこちらに……」


……というわけで、魔王軍のトップにいきなり就職した。正直自宅を警備していた時期の方が楽しかった気がしないでもないが、まぁ命をかけて戦う以外はかなり楽な仕事だったし、怪我した時の保険、アフターケアまで完璧だった。むしろなんで人間社会にこの仕組みを取り入れないのかと思うくらいには快適な生活だった。休日出勤も時々あったが、その分の代休はもらえたし、ぶっちゃけ人間界に居たときよりも待遇がいい。

思えば……昔住んでたのは何王国だったか忘れたけどあの王様も突然人を呼びつけてアホみたいに少ない金と木の枝、そして防具とか名ばかりのただのちょっと丈夫な服を渡して『魔王討伐へ向かうのじゃ!』とか言ってたのは頭悪いんじゃないだろうか。そんなので魔王を倒せるわけがないじゃないか。自分で稼げとかいう話だろうがせめて王国の兵士が持ってる剣くらいは欲しかった。ってかマジでなんだよ木の枝って。敵殴ったらすぐ折れそうだし、スライムとか殴ってもはね返されてこっちが痛いとかいう、武器として致命的な欠陥をもっているんじゃないか。いやむしろ木の枝って武器といっていいのだろうか。火をつけたら松明代わりになるかもと思ったがあっさり燃え尽きるし、正直人口を減らすためとしか思え……

「え、もしかしてそういうことだったのか??」

今更ながらに恥ずかしい。すごく恥ずかしい。無駄な人口を減らすための政策に乗って本当に魔王討伐する直前まで来てしまったのか?とりあえず羞恥と殺意が沸き上がってきた。


「ということなんだけど魔王、やってきていいかな?」

「……いいよ!!」

かなり軽い返事で承諾された。


「もしかして……」

「お……お前は……!」

「勇者さん……?!」

王国に飛んで行ってヒャッハーしてると、強そうな人が駆けつけてきたので顔を確認すると……

「どちら様?」

「いや忘れたのかい!」

「私ですよ!?あの、最弱だった勇者さんにひたすらヒール(かかと)を飛ばしてた……」

「記憶にないな?」

「私のことは覚えてるよな!?あの熱い一夜を共に過ごした……」

「ああ、火山で遭難した時な。確かに暑かったけどお前いたっけ?もうちょっと先で仲間になったよな?」

「じゃあ僕のことは覚えてますよね!?勇者さんを盾にして後ろから魔法を連射していたのですが……」

「あ、それは覚えてる。何回か黒焦げになったもん。火属性の火力落としてほしかった」

「よ、よかった~!ほら見てみなさい、これが印象の差ですよ!」

「そ、そんなことねぇし!」

元・勇者パーティは喧嘩を始めてしまった。

「えっと、とりあえず邪魔なのでどいて?」

「いや、それはできない。たとえ元・人口減少政策の犠牲者……もといクソニートだとしても」

「おいやめろ、それ中身的には何も変わってないしっていうかやっぱりそうだったのかよ!!」

「ぼ……僕だって暇つぶしについて行ったら本当に魔王城までたどり着いてしまうとか思ってなかったんだ……そんなに長い間一緒に旅したとしても、敵として立ったからには容赦なく火炙りにして岩に閉じ込めて海に沈められるね!」

「本当に容赦ねぇな!?」

「勇者さんにヒール(かかと)をすることだけに生きがいを感じていたのに……どうして……どうしてこんなことになってしまったの……!」

「そんなことに生きがいを感じないでほしいし、なによりダメージ与えないで回復してお願いだから」

「さぁ、元・勇者さん!全力でかかってきてください!全力でボコボコにします!」

「なんでそんなにヘイト高いんですかおかしくないですか?!?!」


元・仲間たちとの戦いはそれはそれは、空前絶後、疾風怒濤のとんでもない戦いだった。本に書き起こすと単行本まるごと一冊くらいにはなるだろう。とにかく歴史に残る戦いだったが、説明するのが面倒なので丸ごとカットする。


「はぁ……はぁ……勇者さん、つよく……なりましたね……!」

「いや君一番最初に呪文噛んで悶絶してたよね?」

「お前……搦め手を使うとは……!かしこ……卑怯になったものだな……!」

「いや石につまづいて転んで剣折ったの自分だよね?そこに石あったって知らなかったよ?」

「勇者さん……僕の魔法を……反射するなんて……いつの間にそんな力を……」

「それについてはごめん。魔界で作られる鎧は全部攻撃魔法反射の加護がついてるんだ」

「やっぱり……僕のことはちゃんとわかってたんですね……がくっ」

「そもそもこの国にいると思わなかったよお前たち!っていうかよくこれで魔王城まで攻め込めたね!?」


ここからの話は一部割愛する。


「というわけで滅ぼしてきました」

「……おつかれ!我もハッピーハッピー超楽し~!」

今日も今日とて魔王城は平和である。

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