作者人狼第十一回~「愛」~

ふあぁ~、と呑気なあくびをして隣にいる女は体重を預けてくる。

「のんたん、眠い~」

「ベッドで寝ろ。あたしを枕にするな」

「ぴえん。相変わらず冷たいんだからぁ……」

目をこすりながらそのまま抱きついてくる。

「んにゃっなにすんだよ揉むな揉むな」

「のんたん柔らか~い」

「ぶっ殺すぞ?冬の海に沈むかベッドに沈むか選ばせてやる」

「望海ちゃんの海に沈みたむぐっ」

セクハラをしかけてくる悠香にクッションを押し付け、立ち上がる。

「いいからベッドで寝ろ。あたしは忙しいの」

「彼氏とのメール?」

「彼氏もいないしメールもしてない!というか見て分かるでしょ?本読んでるの」

「最近流行りの漫画とか?」

「料理本だけど?」

「ちぇ~」

「誰のおかげで毎日おいしいごはんが食べられてると思ってんの」

「バイトで稼いでる私じゃん?」

「なら明日からコンビニ弁当でどうぞ」

「いや!だ!!のんたんの愛妻弁当食べたい!!!」

「愛妻って何よ愛妻って。あんたが毎日一限に授業いれるからこっちもその分早起きして作ってるんだけど?あと明日あたし一限だから一緒出るよ」

「うわ~、まるでお母さ」

「明日の弁当、覚悟しときな」

「やだ!!謝るから許して!!」

「はいはい分かったから寝ろ。眠いんでしょ」

「やったー、望海ちゃん大好き!!おやすみ!」

そう言うや否や寝室へと転がり込んでいった。

やれやれとキッチンへ向かい、弁当の下ごしらえを始めた。醤油とみりんを目分量でほぼ同じくらい混ぜ、生姜を適量入れる。タイムサービスで買ってきた消費期限ギリギリの豚肉をつけこみ、冷蔵庫へと滑り込ませる。キャベツを千切りにしてタッパーに入れ、同じく冷蔵庫へ。あとは炊飯器をセットしておくだけだ。簡単に用意を済ませ、さっさとシャワーを浴び、適当に髪を乾かして共同スペースの電気を消し、自分の寝室へ……

「……なんでここで寝てんのよ」

なぜか悠香があたしのベッドでもぞもぞとしていた。

「えへへ……望海ちゃんのいい香り……」

「変態を飼った覚えはないんだけど」

「まぁ、そういわずにさ!」

そういうと悠香は自分の隣に来いと言わんばかりにベッドを叩く。

「……はぁ」

仕方なく自分のスペースを確保して……

「なんでその格好なの!?」

「へへ~、逃がさない~!」

悠香は私をしっかりと抱きしめ、その柔らかい素肌を密着させてくる。

「あぅ……ちょっと、ま、待ちなさいよ!?」

「待たないよ~。私の方こそ待たされたもん~」

「ひゃぁう、そこ、そこはダメってば!!」


……


…………


ふわふわとした感覚。何も考えられない、心地よい暖かさ。気持ちよくこのまま寝て……

「…… やべ。寝坊した」

時刻は九時半。一限開始は九時十五分。終わった。いや別に一コマ程度サボったくらいで単位を落とすことはないのだが、まぁそこはそこ。

「悠香!起きて!」

「ふみゃあ……」

絡みついてくる悠香からなんとか脱出し、ハンガーにかけてある服を羽織る。

どうせ一限には間に合わない。多少ゆっくりしてもいい気がしたが罪悪感が若干の差で勝ってしまったのだった。

いつものように弁当の用意をし、余りを悠香の朝ごはんにする。自分の分は適当におにぎりでも握っておく。

「おっはよ〜、私たち遅刻だね〜」

「誰のせいだと思ってんのよ!!あと服着て、今日寒いから風邪ひくよ!」

「ふぁ〜い」

悠香は朝がかなり弱い。前後逆にシャツを着てもぞもぞとソファに転がっていた。

「ほら朝ごはんそこにある……ってもう!」

悠香を転がし服を着せ、椅子に座らせる。そしてブラシを棚から取り出して長い髪に通す。ルーティンワークと化した朝のドタバタだ。

「ありがと〜、大好き〜」

夜は妙に色々とハイスペックなくせに、朝はだらしない。そんな悠香に惚れ込んで世話を焼いてるのはあたしなのだが、我ながらよく付き合ってるとは思う。まぁ、あたしに好意を寄せてくれる人が少なかったから純粋に嬉しい、ってのはあるかもしれないけど。

「ねぇ~、のんたん。いつもより生姜焼きが多い気がするけど~」

「うるさい、嫌なら取り上げるよ」

「食べるー!」

好物の生姜焼きを食べながら幸せそうな顔をする悠香。なんだかんだ憎めないし、あたしにとって大切な人だ。

「のんたん」

悠香はふとあたしの方を見た。

「どうしたの?」

「いつも、ありがとね」

ぺろっと少し舌を出して笑う悠香。

「…… 二限目、遅刻するよ」

「…… しちゃう?」

「しちゃう?じゃないだろ!さっさと準備して大学行くよ!」

「ふぁ~い」

「……まったく、本当に敵わないんだから」

あくびをしながら自分の寝室へと戻っていく悠香を見ながら、あたしはそっと自分の首筋についた独占欲のしるしを撫でていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る