第十一回作者人狼〜「恋」〜
「祐ちゃん!いる?」
教室の扉をガラッと大きな音をたてて開け、まるで飼い主を探す犬のようにキョロキョロと辺りを見回して見つけるや否やこれまた犬のように突っ込んできたのは幼馴染の浅倉夏樹。
「なぁ、覚えてる?伝説の桜の話」
「覚えてるも何も、アレって嘘だって話はしたじゃないか」
「それがね……もしかしたら本当かもしれないんだ……」
「バカ言え。『学校の裏山の広場に一本だけある桜の木の下で告白したカップルは必ず結ばれる』とか、完全によくある中高生特有の告白のジンクスだろ?」
「バカは祐ちゃんだよ。ジンクスってのは基本悪い意味で使われるんだぞ?」
「へいへい。どうだっていいわそんなん」
「あー、祐一が冷たい〜!さてはアレだな、またフラれたな?」
「うっさい!!!」
「はっはっは、図星か~!」
夏樹は他人事みたいに笑っている。まったく。こちとらピュアピュアハートの17歳男子やぞ。絶賛メンタルブレイク中だが?
「よっし、そんな絶賛メンタルブレイク中の祐一くんのためにカラオケに拉致される権利をあげよう。どうかな?来るよな?」
「…… しゃーない、」
「んじゃ放課後に正門で。おっじゃま~」
「待てよおい!」
まるで嵐のように去って行った夏樹。まったくなんなんだ。
「んま、アイツなりの気遣いだろ?行ってこいよ、祐ちゃん?」
「うっるせ。おめーもカナちゃんって呼んでやろうか」
「やめてくれ気持ち悪い。お前にそう呼ばれるくらいなら飛び降りた方が百億倍マシだ」
そういって全力で拒絶してるのは葉桜奏。『はざくらかなで』という文字列からよく女子だと思われがちだが、れっきとした男である。
「ちっ。じゃあお前も行くか?」
「いや、行かね。悪いが今日は図書委員の担当日なんだ」
「ならしゃーないな。諦めて行くわ」
俺は永海祐一。夏樹から聞いた『学校の裏山の桜の木の下で告白すると必ず結ばれる』とかいう噂を実行すること約四回。回数の時点でお察しだろうが、全て付き合って二か月程度でフラれている。
というわけでアレはガセネタだということで封印したいのだが、夏樹はめちゃくちゃに掘り返してくる。
今回もどうせそういう要件で呼ばれたのだろう、気が重いまま正門へと向かい、夏樹を待った。
「お待たせ~。さて、カラオケ行くか!」
「いつもの駅前でいいな?」
「いいよ!」
なんで俺が連れていく側になっているんだろうか。
特大級のため息をつきながら駅前へと向かった。
「んで、どうだった?今回フラれた子!」
「ストレートに聞くのなお前」
夏樹は今回も妙に目を輝かせている。他人の不幸は蜜の味ってか。
「ん~。まぁ、可愛かったな。ショートボブ……ていうのか?あの髪型。そうそう、まぁそんなやつで、ちょっと小柄で小動物系っていうの?うん、そんな感じ。って再現上手いな?お前本人か?」
「んなわけ。続けて」
「あー。メイクも上手かったかな。デート行ったときすっげー可愛かった」
「可愛かった以外の感想ないの?」
「え?ん~。あ、そうだな、だいぶ人懐っこかったな」
「逆になんで別れたの?」
フリードリンクのメロンソーダを飲みながら夏樹は聞いてきた。
「それストレートに聞いちゃう?そういうとこやぞ。…… まぁ、うん。付き合ってみたらイメージ違ったって言われた」
「なにそれ」
「知らんよ?まぁ…… そういうことなんだろ」
「あ〜、祐ちゃんだいぶだらしないもんな」
「うるせ。だーれが外面イケメンだ」
「イケメンとか一言も言ってませんが?」
ぎゃははは、と二人笑い合う。
「は〜、クソ、お前と笑ってたらどうでも良くなってきたわ」
「そりゃ結構。メンタルブレイク太朗、略してメンブレ太朗した時には呼びなよ?」
「お前から誘ったんだろうが、バーカ。あとなんだよメンブレ太郎って」
「メンタルブレイク状態になること?……祐一、これ開かない」
コンビニで買ったポテトチップスの袋を投げて寄越してくる。
「ったく……お前は本当に調子がいいよ」
渋々と袋を開けてテーブルに置いた瞬間に夏樹にガサっと持っていかれる。
「太るぞ?」
「言うなぁ!」
── そんなこんなで、カラオケという名の雑談会が終わった。いつものように雑に絡んでくる夏樹を振りほどき家に帰す。帰すといっても隣なのだが。渋々と帰っていった夏樹の家から、俺にとっては環境音に等しいくらいに慣れ親しんだドタバタ音が聞こえた。
「はぁ」
とりあえずシャワーを浴び自室に戻りカーテンを開け……
「……」
「……」
そっと閉じる。よりによってこの幼馴染と同じタイミングで開けるとは。
「ちょま!無視すんな!!」
「なんだよ話すことはさっき話しただろもうネタにできることなんざないぞ帰れ帰れ」
「待って!!お願いだからこれだけ聞いて!!」
「……なんだよ、まったく」
仕方なく窓を開けて壁に寄りかかる。
「あのね、明日の放課後桜の木まで来てほしいって言ってた子がいたよ」
「……ふーん」
「あ~!信じてないだろ!……でもま、意外な人物だぞ?」
「誰?」
「それは本人の希望で秘密ってことで。んじゃ、伝えたからね」
「は?おい待……」
既に幼馴染は窓とカーテンを閉めていた。ホント、なんなんだ。
……しかし、桜の木の下か。まぁ、期待はしないでおこう。どうせすぐにフラれるに決まってる。
「お。桜の木のところに行くのか?」
奏はニヤニヤと笑っている。
「ん。まぁ、期待はしてないさ」
「頑張れよ。破局RTA記録更新待ってるからな」
「酷くない?というかなんだよ破局RTAって」
「付き合ってから別れるまでのリアルタイムアタック」
「せめてもっと別の物でRTAやって?」
「じゃあ結婚RTA」
「とりあえず人の人生でRTAやるのやめようぜ?」
「RTAって人生かけるものだぞ」
「もっともらしいこと言って誤魔化しやがって…… 」
「ほら、いいからさっさと行ってこい」
「へーい」
奏に手を振って別れ、桜の木の元へと向かう。
「……」
「ねぇ、驚いた?」
桜の木の下にいたのは、夏樹だった。つい昨日までは綺麗なロングヘアだったが、今日は肩の少し上くらいまで切っていた。
「……何やってんの?」
「……君が言ったんじゃん。ショートボブが可愛かったって」
「ちょっと待ってくれよく状況が分かってない」
「もう!!ホント鈍いね祐ちゃん!」
夏樹に手を引かれ、桜の下に引っ張られる。
「…… 」
恥ずかしそうに下を向く夏樹。
「……え、え、え、そういうこと!?」
「…… ずっと前から好きでした。付き合ってください」
「なんで!?」
「『なんで!?』じゃないよ!?ここは男としてバシッと答えるところでしょうが!!」
「え、いやだっていつもみたいにこう……なんか乱暴な口調じゃないし、なんかおとなしいし……」
「それは…… その…… その方が祐一と一緒にいやすいのかなって思って…… 頑張ってそうしてただけ……」
確かに、中学二年生のころくらいからか、夏樹は男勝りな口調になっていた。まぁ、思春期なんてそんなもんだろうと思っていたのだが…… 。
「……ごめんね。やっぱりいつもみたいに変な絡み方した方がいいかな?」
えっと…… えっと?
「たまには…… こんな夏樹もいいと…… 思う」
「そ、そう?じゃあ、二人のときはこうやって話しててもいい?」
「いいけど…… なんかムズムズするな……」
どこか気恥ずかしい。あれ、この幼馴染、こんなに可愛かったっけ?
「……それで、その……告白したんだから答えてくれてもいいんじゃない?」
「え……あ、ああ。俺でいいなら…… 」
「40点」
「え?」
一瞬夏樹が不満そうな顔をした気がした。
「……なんでもないよ。さ、一緒帰ろ?」
「お、おう」
夏樹が振り向いて歩き出す。。
……。
…………。
「夏樹。今日のお前、めっちゃ可愛いよ。好き」
夏樹がぴたりと止まる。耳まで赤くなっているのがバレバレだ。案外、扱いやすいのかもしれない。
下を向いたまま俺に飛びついてくる。
「……その返事、150点」
彼女は俺に抱きついたまま、小さくつぶやいた。
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