第十回作者人狼「続」〜サブタイトル「シール」「Axe」

グリムリーパー。『死神』の名は最早知らないものはいないと言われるほど有名なものになっていた。確認されている死神陣営は二機。『グリムリーパー』と『シュトルムフィーダー』だ。逆に言うと、我々はたったの二機に苦戦しているのである。この状況を打開するために傭兵組合は討伐部隊を編成し、打倒死神を掲げて立ち上がろうとしていたのだった。


「アタシらレッドローズ隊からはルイン・メティアを出す。異論は?」

「ありません!」

私はルイン・メティア。幼い頃に両親に捨てられ、今のレッドローズ隊の隊長、クリム・ロセに拾われたのだった。

レッドローズ隊とは、TEAの製造会社の一つであるIron-Rose社専属の傭兵部隊の一つだ。他にもブルーローズ、イエローローズなどの部隊が存在するが割愛する。

「ルイン、やれるか?」

「問題なく」

「ではルイン様を作戦本部へと案内しましょう。どうぞこちらへ」

討伐部隊の者だと思われる男は一礼をすると、Iron-Rose社のTEA格納庫へと移動した。

「ルイン様、新型機を用意していますが、現在最終調整中でございまして。作戦本部に到着してからの支給となりますが、よろしいですか」

「構わないわ。新型機と言っても、私の『ヴァーミリオン』の換装パーツセットでしょう」

「了解しました。それでは作戦本部へと移動しましょう」

私はヴァーミリオンに乗り込み、いつものようにシステムを起動する。

『システム起動。エネルギー稼働率上昇中……基準値突破。駆動開始。駆動制御システム:身体接続モード。スラスター制御をマニュアルに設定。RW-ノーブルスライサー:損傷率27%、替刃ストック7。LW-スコルピオ:残弾360。システムオールグリーン。出撃可能です』

「……出撃、だなんて言っても作戦本部への移動だけだけれどね。さて、行きましょうか」

「では、私についてきてください」

格納庫のシャッターが開き、眩しい光が差す。システムの設定を開き、目の前にいる機体、『REI』を僚機として登録する。

「案内頼んだわよ」


対死神作戦本部はIron-Rose社からは少し離れた都市にあった。TEA専用通路を通り街の地下格納庫へと入る。

「ルイン様に割り当てられている宿舎は7階にある『赤薔薇の間』です。Iron-Rose社のレッドローズ隊をイメージした装飾となっています。カラーリングの変更はいつでもお申し付けください」

案内役の男はエレベーターの7階のボタンを押した。

「……妙に待遇がいいわね。まぁ良いわ、仕事だもの。使えるものは最大限利用させてもらうわ」

赤薔薇の間へと案内される。赤、と聞くから派手な装飾なのかと思っていたが、どちらかと言うとワインレッド系の落ち着いた色の赤色だった。

「なかなか良いわね。気に入ったわ」

「それはそれは、とても光栄です。それでは、次に作戦本部へご案内します」

再び歩き出す。廊下で時々傭兵と思われる人とすれ違った。

「意外と人がいるのね。発足してからあまり時間が経っていないと聞いたのだけど」

「Anne Norn社から出資をいただきましてね。その関係各社から人材を派遣していただいたのですよ」

「そういうこと。ということは機体も提供されているのかしら?」

「実際に私の機体はAnne Norn社製でして。『Raid Executioner type -Ignis-』、略して『REI』を使わせてもらってます。『火炎の襲撃者』と言ったところでしょうか。火力支援器を標準装備としています。味方の動きに合わせて支援火器を使用するのが主な立ち回りですね。…… 説明をしている間に到着してしまいました。こちらが作戦本部です」

案内役の男は入り口の認証機にカードキーを挿入した。その直後、扉に模様が浮かび上がる。そこを継ぎ目にしているのだろう、模様に沿って扉が開いた。

「予想通りの時間だ。案内ご苦労、セヴィス。そちらがルイン殿か?」

「はい。ルイン・メティアです。どうぞよろしくお願いします」

「俺はアルフレッド。所属はAntique-Knights社だが、まぁフリーの傭兵に近いな。さて、少し話をしよう。君は『死神』についてどこまで知っているかな?」

「機体コード『グリムリーパー』および『シュトルムフィーダー』の二機のことだと聞いています。文字通り傭兵を狩ることが目的だとか」

「そうだ。理由は不明だが、突然現れては傭兵を襲っている危険なヤツらだ。今回、この死神に対抗すべく腕利きの傭兵部隊を投入することになった。傭兵が減ることによって不利益を被る企業は多いからな」

「精鋭だけで部隊を編成し、死神の奴らを撃破するということでしょうか」

「その認識で構わない。さて……そういえば君の機体に追加パーツを取り付ける手はずになっていたね。追加パーツの説明をしよう」

そう言うとアルフレッドは端末を差し出してくる。

「追加パーツ『インフェルノレイダー』……ブレード、メイス、アクスの3種類の武装を二本ずつ支給する。既存の武装と合わせて同時に使用するための追加パーツ、それが『インフェルノレイダー』だ」

画像が表示される。私の機体『ヴァーミリオン』の背に六本のアームが装着されていた。

「そのアーム一つが腕のように扱える。もちろん、システム接続を身体接続から生体接続へ接続ランクを上げる必要があるが……。大幅に強化されることで生存率も上がるだろう。危険な任務に就くには仕方があるまい。出動命令が出るまでは可能な限り新しい接続方式に慣らしておくといいだろう」

「……このアーム、収納できませんか?」

アームが剥き出しだとあまりにも見栄えが悪い。レッドローズ隊の隊員としてはかなり致命的な問題だ。

「あぁ、もちろんできるさ。というかそもそも、『インフェルノモード』を発動中のみ、そのアームが使える仕様だ。最初から切り札を見せるのは愚かなことだろう?」

「分かりました。では私は演習場へ向かわせてもらいます」

「ああ。好きなだけ調整するといい」


『システム起動。アップデート実行。機体コード更新:【ヴァーミリオン・インフェルノレイダー】。インフェルノモードのデータを取得中。RW-ノーブルスライサー:損傷率27%、替刃ストック7。LW-スコルピオ:残弾360。追加武装認証、ドレッドノート、デスペアクレイドル、ニーズヘッグウイング、ガイアスプリッター、ラヴァナブレイド、ブレイジングローズ、承認。駆動制御システム:生体接続モード。警告、生体接続モード初接続時は周囲の安全を確認した上で初期設定を行ってください』

腕と脚を接続端子に入れる。

『生体認証を開始します』

「ッああああああああああああッッッッッッッッ!!!!!」

腕と脚が固定され、締め付けられる。針が刺さる感覚と共に、血が出ているのを感じた。意識が遠のきそうになるが、ほぼ意地で耐えていた。

『認証完了』

「ッ……ハァ……」

なんとか生きている。通信機が鳴る。

「ルイン、大丈夫か?」

「アルフレッド……さん……」

「安心してくれ、それは初接続の時だけだ。セフト粒子の状態更新に必要なのでね。落ち着いたら演習場で暴れてくるといい」

『止血を開始します。動かないでください』

無機質な機械音声が聞こえた直後から、若干の圧迫感とともに止血処置がされているのがわかる。

『システム更新完了。機体コード【ヴァーミリオン・インフェルノレイダー】、システムオールグリーン』

「……ヴァーミリオン、出撃します」


『訓練ターゲット起動。設定:エクストリームモード』

演習場に着いた私は、いきなり高難易度演習を設定した。

「ルイン様、さすがにいきなりそのモードを起動するのは……」

「このくらいしないとこの子は応えてくれないわ」

24機の演習用大型ドローンが打ち上がる。

『訓練開始』

大型ドローンが縦横無尽に飛び回る。

「まずは……これかしら」

『RW-ドレッドノート、LW-デスペアクレイドル』

二本のメイスを取り上げる。

「ルイン様、高速戦闘においてメイスなどの重い武装は……」

「黙って見てなさい」

デスペアクレイドルを振り上げる。その先には三機のドローン。

「……さぁ見せてみなさい、ヴァーミリオン」

地面へデスペアクレイドルを叩きつける。ドローンの回避行動は早く、メイスは空振りに終わった。

「ですからルイン様……ッ!?」

私は、地面に刺さったデスペアクレイドルを軸にし、スラスターを起動する。高速の蹴りが三機のドローンを破壊し、そのままドレッドノートを振り回す。動きを予想していなかったドローンが五機巻き込まれた。

「換装」

勢いそのままにドレッドノートを上に投げる。

『RW-ニーズヘッグウイング、LW-ガイアスプリッター』

二本のアクスを装備し、スラスターを起動する。

私は、順調にドローンを叩き落としていったのだった。


「セヴィス、出撃の用意をしろ。死神らしき反応を捉えた。偵察に向かって欲しい」

「はっ、アルフレッド様」

「……これが『狂戦の殺戮人形』と呼ばれるルインの戦い方か。凄まじいな」

「機動力を誇るドローンを近接武器だけで仕留めていくなど初めて見ましたよ」

「これならグリムリーパーを破壊することも可能になるかもしれんな……」

「そうですね。傭兵稼業ができなくなったら私たちは生きていけませんから。……では私は出撃します」

「ああ、行ってこい」


『インフェルノモード起動。僚機は巻き込まれないように離れてください』

16機のドローンを叩き落とした私は、最後の調整としてインフェルノモードを起動していた。

『起動完了。武装認証開始。ノーブルスライサー、スコルピオ、ドレッドノート、デスペアクレイドル、ニーズヘッグウイング、ラヴァナブレイド、ブレイジングローズ。全承認』

「さぁ……暴れなさい、ヴァーミリオン!!!!」

背中のアームでドレッドノートを地面に突き刺し、機体を固定する。その瞬間に背後を通り過ぎたドローンにラヴァナブレードを突き出し、正面に来たドローンにノーブルスライサーを滑り込ませる。左右を飛ぶドローンにガイアスプリッターとニーズヘッグウイングを打ち込み、上空を飛ぶ三機のドローンをスコルピオで撃ち落とす。

『スコルピオ:残弾330』

「リリース!」

ノーブルスライサーを振り抜くと共に刃をリリースする。高速で飛ぶ刃は、太陽の方向に隠れていた一機のドローンを撃ち落とした。

『訓練終了。記録:【00:02:36】新記録更新』

「さすがは噂のTEA乗りだ。いともたやすく俺の記録を塗り替えるとは」

「いえ、頂いた追加パーツのおかげで……」

アラートが鳴り響く。

「どうした!?」

「死神と思われる反応を確認!セヴィス殿率いる部隊と交戦中だそうです!」

「……ルイン、行けるか?」

「はい。お任せを」


───


「大丈夫ですか、ゼノ?」

「セヴィス隊長……」

「あらあら、その程度ですの?」

「…… 」

「…… 抵抗するつもりかしら?いいわ、蹂躙してあげる!!!」

「セヴィス隊長……!」

シュトルムフィーダーが近づいてくる。

「…… アルフレッド様。私はここで終わりのようです」

…… 申し訳ありません。


───


『セヴィス機、ゼノ機、反応ロスト』

「……間に合いませんでしたね」

炎上するTEAらしきものが見え、その上に一機の黒い機体が見える。

「あれがグリムリーパーかしら?」

『機体識別コード:シュトルムフィーダー』

「なら死神の一味ね。容赦はしない」

スコルピオの銃口をシュトルムフィーダーに向ける。

「……お仲間かしら?ふふ、私は……いえ、名乗るまでもありませんわね。どうせ死ぬのですから」

「…… こちらから仕掛けてもいいのかしら?」

「ええ。どうぞ、遠慮なく」

シュトルムフィーダーのパイロットが言い終わるよりも前に私は引き金を引いた。シュトルムフィーダーの姿がブレる。

「遅いわね。楽しみにしていたのに」

『警告:背後より敵性機体が高速接近』

ノーブルスライサーを背後に突き出す。

「リリース」

刃を飛ばした。予想外の行動だったのか、シュトルムフィーダーは機体を傾け、旋回していく。

「へぇ、もしかして生体接続してるのかしら?いい反応速度してるわね」

「……だから、何?」

「……気に入ったわ。その機体、全力でブチ壊してあげる!!!」

シュトルムフィーダーの速度がさらに上がる。

『ノーブルスライサー、替刃装填。ストック6』

「換装」

『武装変更。スコルピオを収納。ドレッドノートを装備』

「近接だけで私に勝負を挑むなんて、私も相当舐められたものね」

銃弾の雨が降り注ぐ。

私はシュトルムフィーダーへドレッドノートを投げた。予想どおりシュトルムフィーダーは最小限の動きで回避行動を取る。その瞬間私はドレッドノートに巻きつけていたワイヤーを引いた。ドレッドノートが跳ねる。

「ッ!」

シュトルムフィーダーの横っ腹に金属の塊が叩きつけられる。

「ブースター最大出力!」

寸前で壁に叩きつけられることを回避したシュトルムフィーダーは上空へと飛び上がった。

「……あなた、私に傷をつけるだなんて」

「だから、それが何?」

シュトルムフィーダーが武装を捨てた。

「この機体の本当の力、見せてあげる!!」

機体の肘と膝の関節が変形する。そしてそこからフォトンセイバーが伸びる。

「この姿を見たからには、生かしては帰さないわ」

シュトルムフィーダーの姿がブレる。目の前にフォトンセイバーが迫る。

『インフェルノモード起動。僚機は巻き込まれないように離れてください』

背中のアームがシュトルムフィーダーを捕らえる。

『……全承認』

「暴れろ、ヴァーミリオン・インフェルノレイダー!!!!!」

ラヴァナブレイドとブレイジングローズがシュトルムフィーダーを弾く。

「くっ……!」

離れ際に脚で薙いでくる。スラスターを起動して回避し、スコルピオの弾をばら撒く。

『スコルピオ:残弾300』

「なら……これはどうかしら!」

シュトルムフィーダーが左脚のフォトンセイバーを突き出す。ノーブルスライサーで迎え撃ち、デスペアクレイドルを打ち込んだ。右腕のフォトンセイバーで弾かれる。死角からラヴァナブレイドとブレイジングローズを滑り込ませ、スコルピオを1マガジン撃ち切る。恐るべき反応速度で切り返したシュトルムフィーダーがスコルピオを貫いた。

『スコルピオ:認証不可』

「貰った!!」

アームが二本斬り落とされる。

『ブレイジングローズ、ラヴァナブレイド:認証不可』

「はぁっ!」

ニーズヘッグウイングでシュトルムフィーダーの左腕を叩き落とす。

「リリース!」

そのままノーブルスライサーを振り払い、刃を飛ばした。

「遅いわ!」

シュトルムフィーダーが刃を掴み、投げ返してくる。左腕で弾き飛ばすが、そのはずみで左腕のセンサーが破損した警告が流れた。デスペアクレイドルを地面に叩きつけ、反動を利用して上空へと飛ぶ。

「上を取ろうとするの、アンジェ姐さんと同じで悪い癖よ」

シュトルムフィーダーがフォトンセイバーを突き出し突っ込んでくる。そこに合わせてドレッドノートを叩きつけ……

『ドレッドノート:認証不可』

すれ違いざまに、アームが切断されていた。

「捉えた」

右腕からワイヤーを出しシュトルムフィーダーを捕捉する。このままガイアスプリッターで地面に叩きつければいくらシュトルムフィーダーでも無事で済むはずがない。

「舐めないでほしいわ」

シュトルムフィーダーがスラスターを最大出力で起動する。振り回され吹っ飛ばされる。

『自動姿勢制御起動』

体勢を立て直し、シュトルムフィーダーを見据えた。

「あなたの冷酷な機械のような戦い、好きだけど嫌いよ」

「だから何だって言ってるのよ」

「まるで自分を見ているようだもの。気味が悪いに決まってるでしょう?」

「……奇遇ね。ここまで来て意見が一致するなんて」

二機が同時に飛び出す。


───


「やれやれ、仕事が終わってきてみれば」

「アンジェ……姐さん……」

最悪の状況だ。ガイアスプリッターでシュトルムフィーダーの脚を斬り落としたのは良いが、代償に駆動システム回路を貫かれ、愛機を起動できない状態になっていた。そこにきてグリムリーパーの増援だ。愛機の操縦席に座ったまま私は外を眺める。

「アンタも派手にやられたねぇ。さて、相手を殺すか、という話なんだけど……」

「そいつは……私……が……殺す……わ」

「だそうだ。命拾いしたねぇ?」

そう言うとグリムリーパーはシュトルムフィーダーを担ぎ上げてどこかへ飛び去った。


「……ン!ルイン!聞こえるか!?」

雑音交じりに通信が入る。

「アルフレッドさん……?」

「よし、無事か。君の機体の反応がロストしたと聞いたが、何があった?」

「シュトルムフィーダーを撃退しました」

「なんだって!?」

私は簡単に状況を説明する。アルフレッドはそれを聞くとすぐに回収部隊を手配してくれた。

「本当によくやってくれた……!機体の解析が進めば死神対策は次のフェーズに移行できるだろう!さぁ、英雄の帰還を祝う準備をしろ!!」

通信越しに歓声が聞こえてくる。

「たまにはこういうのも悪くないかもね、ヴァーミリオン」

私はヴァーミリオンの肩へと昇り、沈んでいく朱色の夕陽をみつめていた。

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