第六回作者人狼~『疾』~ サブテーマ『戦』『力』『羽』

「私にこれに乗ってほしいって?」

「そうだ。君をアンゼリカに紹介してもらってね。聞くところ、傭兵としての腕はかなりのものらしいじゃないか」

私は、どうやらアンジェ姐さんに紹介されたらしい。アンジェ姐さんはTEAのパイロットとしてもかなりの腕前で、仕事の斡旋屋としても顔の広い人物だ。ならば信用してもいいのかもしれない。

「あぁ、アンジェ姐さんね。ええ、それなら良いわよ。で、この機体を託すということは私に依頼があるのでしょう?」

「では交渉だ。君を私の傭兵として永久に雇いたい」

「へぇ」

珈琲のカップを手に取る。

「いや何分、私は争いごとが嫌いでね。現代における”すべてを代理戦争によって決める”という方針を壊したいのさ、私は」

「あなた、分かっているでしょう。私はそんなことに興味はないわ。報酬を示しなさい、報酬を」

「任務達成後の生活は保障しよう。永久に」

「……そうきましたか。面白いわね。いいわ、その話に乗りましょう。機体のスペック表をもらえるかしら?」

「こちらだ。アンジェの話をもとに設計している。君に最適の設計をしたつもりだ」

そう言うと目の前にいる男はタブレット端末を取り出し、私の前に差し出してきた。

「機体コード……”シュトルムフィーダー”?なにこれ、あまりにも規格外すぎる……!?」

「私の工房で製造した最高級の機体のうち一機でね。アンジェにはグリムリーパーを渡した。あれは超遠距離狙撃と高速格闘戦闘を主軸に開発した”死神”だ。そしてこの機体の設計コンセプトは高機動戦闘。グリムリーパーは近距離と超遠距離での運用を目的としているため、中距離戦闘には向かない。それを補完するために設計したのがこの高機動中距離戦闘を得意とするシュトルムフィーダーだ」

実際にスペックを見ると、装甲を軽量化しているのだろうか、明らかに中型戦術機甲としては軽量だった。そしてブースター出力は最新型のTEAのブースターに比べても桁違いに高く、システムも中距離用にチューニングされているようだった。

「それで、私のこの腕でも扱えるのかしら?」

私は義手となった右手を掲げる。

「もちろん。その右手を直接制御システムに接続することでより高い精度で反応を見せてくれるでしょう。えぇ、私の野望を叶える前に死んでもらっては困りますから、最大限のサポートをさせていただきましょう」

「依頼を出しなさい。久しぶりに戦場に行くことになって、とても気分が昂っているの」

無意識に口角が上がっていた。


『システム起動。エネルギー稼働率、稼働理論値100%。武装認証。RW- SAG、LW-X8、共に残弾問題なし。LP-AR5、RP-N94、残弾問題なし。SW-フォトンブレード、エネルギー稼働理論値99%。システム制御を高機動戦闘用に設定。スラスター制御をマニュアルに設定。各種センサー感度良好。生体義手登録。適合確認……承認』

「ふふ……いいわよいいわよ……戦場に行くときはこうじゃなくちゃね……」

接続した義手と、左手の肌から感じ取れるこの感覚。ゾクゾクする。

『機体損傷率0%。戦闘に支障なし。システム、オールグリーン』

「さぁ、新しい戦場へ翔ぶわよ……!私の新しい翼、シュトルムフィーダー!!」


戦域に入る。あの男がアンジェ姐さんに通信を入れたようだし、戦域にスキャンをかけてアンジェ姐さんの位置を探す。

「アンジェ姐さん。お久しぶりですわ」

「おっと。アンタまだ生きてたのか」

「当たり前です。あの程度で死ぬわけないじゃないですか」

私がカメラに笑いかけると、アンジェ姐さんは苦笑した。

「おいおい、それで無事だっていうのか?義手じゃないか。TEA乗りとしてどうなんだい?それは」

「ご心配なく。特別仕様の機体ですから」

「あの男のかい?ったく、お前も物好きだな」

「アンジェ姐さんに言われたくないですよ?……あら、戦域レーダーに反応がありますね」

「ちょうどいい。アンタの力を見せてみな。なぁに、死んでも骨くらいは拾ってやるさ」

「ふふ。アンジェ姐さんこそ、流れ弾に当たって死なないでくださいまし?」


操縦桿を握る。

「さぁて、楽しみましょう?感じましょう?死の冷たさを……いいえ、その生きようとする愚かな足掻きを!!!!」

ブースターを最大出力に設定する。もっと、もっと速く。つぶれてしまうほど、誰にも追いつけないほど速く!!!視界に三機の小隊を発見する。

「隊長!?何か高速で移動して……!は……速い……!?レーダーで捉えられません!」

「死神か?」

「いいえ……グリムリーパーはここまでの速度は出せません!」

「捕捉されないように移動し続けろ!」

遅い。遅い遅い遅い!!!

「敵機捕捉!識別コード……”シュトルムフィーダー”?」

「正体不明機か!?」

「あら……捕捉されてしまったようね」

なら……死ね。

『RW-SAG、残弾500』

「どこから撃って……うわぁぁぁぁ」

一機撃墜。さぁ二機目。

「捉えられない……!嫌だ……死にたくない!!」

「その程度の覚悟で戦場に来ているの?」

なら……死ね。

『LW-X8、残弾420』

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「クソッ、お前たち、仇は討つぞ!」

隊長機らしき機体が岩陰に隠れる。

「あら、そんなところに隠れても無駄よ?」

岩陰に向けてSAGを……いない?

「やっと捉えたぜ?」

「上か!」

スラスターで姿勢をずらし、銃撃を避ける。

「このシュトルムフィーダーを甘く見ないで頂戴?」

リロードを始めた敵機に接近し、膝に仕込まれたフォトンブレードを突き刺す。

「ぐはぁぁぁぁっ!!!」

そのまま地面へと叩き落とした。

「あら……この程度?」

三機撃墜。少し遊んだけれど、2分15秒、ってところかしら?

「へぇ、やるじゃん」

通信機越しにアンゼリカの声が響く。

「アンジェ姐さん。出番とっちゃってごめんなさいね?」

「いいや、楽しんでたようで何よりだ」

「あら……そうかしら?つまらない戦いだったわ」

「んなことどうでもいいのさ。さて、次の仕事だ。行くぞ、『疾風の狂気姫』」

「あら、私の二つ名をよくご存じで」

「おや?戦場じゃ常識だぜ、アンタの二つ名」

「あらあら。なら、その名前に恥じぬ働きを約束しますね」

気が付くと、私の口角は上がっていた。

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