第六回作者人狼~『疾』~ サブテーマ『ろく』『鷹』『禁』

「あぁまったく。嘆かわしいにもほどがある。実に。実にくだらない。富?名声?そんなものが何になるというのだ。そんなもの踊らされてまだ勇者とやらがやってくる」

溜息をつく。金と名誉のために魔王討伐だと?反吐が出るわ。

「どうせまた、あのロクでもないクソ奴隷帝国にでも騙されたんだろうよ」

「口が悪いですよ、蛇竜王ガル・ファング卿」

「チッ……わぁったよ。我らが主、魔族王ヴァルグ様の御前だ。自慢の毒舌も三分の一で我慢するさ」

「あなたの場合は毒舌ではなく毒牙でしょう」

「うるせぇ。なんならこの毒牙にかけてやってもいいんだぜ、魔狼王ロア・ルプス卿?」

「遠慮しておきます。死に場所は決めているので」

「やれやれ、そういうのは他所でやってくれないか?僕たちは今、勇者をどうするかという話し合いをしているはずだ」

睨み合うファングとルプスを呆れたように疾風王エル・フォコンが諫める。

「そうですわよ。今回の勇者、私の幻視蝶スコープ越しに見てもかなりの実力だと分かりますわ」

魔女蝶ラ=モルフォニーがため息をつく。

「あなたがそれほどまで言うのは珍しい。……フォコン。確か貴殿だったか?帝国の実験について調べていたのは」

「イェス、マイロード、ヴァルグ。東のレイシス帝国では近年、学校に通えない子供や親を失った子を帝国で面倒をみる、と称して人体実験や洗脳教育を行っている。……先ほどのファング卿の言葉も分からなくはない。まるで奴隷のような扱いを受けている人間が多いのも事実だ」

「その上、我々を脅威として吹きこんでいるのかもしれません」

「ルプス。それはどういうことだ」

「我々の同胞が最近怪我をしたり殺されたりすることが多くてですね。基本的に群れで行動しているので全滅することはあまりないはずなのですが、いくつかの群体は一族皆殺しに遭ったそうです。被害にあった者はみな口をそろえて『人間が襲い掛かってきた』と」

ルプスは哀しそうに話した。

「モルフォニー。幻視蝶スコープの監視網に違和感はあったか?」

「はい、マイロード、ヴァルグ。確かにルプス卿のご同胞が攻撃されているのを感知はしましたが……。確かに、どこか憎しみに近い感情を持っていたような……?」

モルフォニーが首をかしげる。

「我々は基本的に人間を襲いません。食べにくいし、明らかにリスクのほうが高いので。族長クラスの、高い魔力を持っている者でさえ時々襲ってくる人間を撃退する程度です」

ルプスがため息をついた。

「少なくとも、我々は人間に憎まれるようなことはしていないつもりです。いえ、する理由がありません」

「むしろファング卿の方が人間に憎まれてそうね」

「あ?その風にも乗れなさそうな薄い羽に穴でも開けられてぇのか?」

「あら、ただの事実ですわよ。幻視蝶スコープを侮らないでいただけます?憎悪指数くらい可視化できますわ。竜族に対する人間たちの憎悪感情、確認なさいます?」

「……チッ。いつか殺す」

「ファング。落ち着け。貴殿は我が魔王軍最高クラスの戦力なのだ。安い挑発に乗るな。モルフォニーもすぐ煽る癖をやめろ」

「……イェス、マイロード、ヴァルグ」

ファングが拗ねたようにとぐろをまく。

「では、本格的に作戦会議としましょう。モルフォニー卿。幻視蝶スコープを映してください」

ルプスに促され、モルフォニーは魔力でできた青色の蝶を放った。数秒ののち、議場の中心にある球体から像が映し出される。

「分析結果。使用武器は剣、使用魔法は雷属性。ここは普通だけれど、おそらくすべての能力値がS級ですわね」

「S級だと!?」

フォコンが勢いよく飛び上がる。

「おい、どうした鳥野郎。そんなに慌てて」

ファングが退屈そうにあくびをする。

「奴ら……禁じ手を使ったな……!」

「禁じ手?なんですの?」

「魔力暴走による身体強化。すべての能力をS級に引き上げる代わりに寿命を大きく削る大魔術だ……」

「そうか。なかなかに酷いことをする」

「マイロード、ヴァルグ。どういたしましょう?」

「フォコン。解除は」

「不可能だ。魔力暴走の仕組みはまず、対象者を魔力中毒になるほどの魔力漬けにすることから始まる。本来、取り込めなくなった魔力はすべて放出されるが、その放出スピードを上回って吸収させるんだ」

フォコンがボードを引っ張り出してなにやら描き始めた。

「そうやって取り込んだ魔力を、外側から強制的に励起させる。すると、連鎖的にすべての魔力が励起する。この状態から、さらに不活性の魔力を注ぎ込む。すると、不活性魔力と活性魔力の層ができる。そこで活性魔力をロックして、不活性魔力と場所を入れ替えることによって『魔力不足』を認識させる。その分を補おうとして魔力を吸収する。こうすると、活性魔力を纏ったまま本来の不活性魔力を使用できる、つまり魔術が使える」

「待ってほしい。つまりそれは『詠唱なしで魔術が使える』のでは?」

「さすがルプス卿。賢狼と言われるだけある。そうだ、活性魔力を纏っているということは不活性魔力を一瞬で励起させられるということ。つまり、詠唱がいらない」

「加えて、広範囲で威力の高い雷属性を操る……まぁ、単独で挑んだら勝ち目がないわね」

モルフォニーがため息をつく。

「そして、仕組みから分かると思うけれどこれは不可逆反応なんだ」

「だから解除不可能、と」

フォコンが頷く。刹那、幻視蝶の色が赤色へと変わった。

「マイロード、ヴァルグ。どうやら勇者が城へ侵入したようですわ」

「では、四天王総力をもって此度の勇者を阻止せよ」

「「「「イェス、マイロード、ヴァルグ」」」」


広間の扉が開いた。

「探したぜ……魔王ヴァルグ!」

「威勢のいい若者だ。殺すのが惜しいほどに」

「うるせぇ!お前は帝国の人々を苦しめる悪だ!絶対に俺が始末してやる!!!」

「そうはさせません。我が名は魔狼王ロア・ルプス」

「俺の名は蛇竜王ガル・ファング」

「疾風王エル・フォコン」

「魔女蝶ラ=モルフォニーと申します」

「「「「我ら、魔族王ヴァルグを護る者なり」」」」

勇者が剣を構える。

「邪魔だ……どけ!」


壮絶な戦闘だった。モルフォニーによる支援をうけ、フォコンが飛び回って攪乱し、ファングの毒牙の猛撃が勇者を消耗させる。ルプスは隙をうかがいつつ高速で走り回り、確実に強襲する。なんと連携のとれた四天王だろうか。速やかに勇者は返り討ちにされ、レイシス帝国へと転移させられた。さすがにS級相手だったこともあり、消耗はあったようだが四天王も本当によく働いてくれた。



「……実に。実にくだらない。富?名声?そんなものが何になるというのだ」

「「「「会議を始めましょう、マイロード、ヴァルグ」」」」

── 今日も今日とて、勇者は我が城を訪れる。

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