第五回作者人狼〜『失』〜 サブテーマ『刃』
血。
辺り一帯に広がる鉄臭さ。
無造作に横たわる戦友だった肉塊。
散らばった黒い塵。
── 何人死んだ?
── 何体殺した?
「へへっ…… いくらオジサンになっても…… この光景だけは…… 慣れねぇなぁ。……よっこらせっと」
近くに落ちていた槍の残骸をついて立ち上がる。
この世界は、まさに地獄だった。
マモノ。はるか昔から存在していると言われる異形の怪物。人間は、マモノと激しい攻防を繰り広げながら歴史を紡いで来た。いくつもの都市が蹂躙され、数えきれないほどの人命が消えた。子供の頃俺が住んでいた居住区も以前マモノの襲撃にあった。偶然居住区の外にいた俺は、ただ蹂躙されていく我が家と踊り食いされている人間を峠から茫然と眺めているだけだった。もちろん俺の幼馴染であるアンジェも──
「っと、いけないねぇ。歳取るとついつい昔を振り返っちまう」
背負っていたケースを道端に置き、蹴り倒して開ける。中には、設置型対魔機関銃のパーツ。
「そらよっと…… ふぅ、第三波に間に合うのかね、これ」
今俺がいる場所は、首都へと続く主要街道。どうやら周期的にマモノどもの大移動があるらしく、そのルートがまさにここを通って首都を通過するのだった。マモノ駆除隊が編成され、首都の住民の避難が完了するまで防衛するのが俺たちの任務というわけだ。
「さて……お客様だな」
双眼鏡を覗くと、次のマモノの群れが見えてきた。
「…… 本当にオジサン一人でこれやるの?パッと見200体くらいいるんだけどなぁ」
武装を確認する。まずは対魔特殊拳銃。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……炸裂弾6発か……ブレードは予備含めて4本。無理だなコレ」
口ではこう言ってみたが、何一つ諦めちゃあいない。
「さーて、このアーロン、攻めは苦手だが守りは堅牢、惚れた相手にゃ振られに振られて生涯独身!失うものなぞ何もなきかな。さぁさ我が実力、その双眸でご覧あれ!……オジサン、強いぜ?」
対魔機関銃射程内。大量に吐き出された弾丸は、次々にマモノの心の臓を貫いていく。70体ほど殺したところで機関銃は沈黙した。
「…… バレルが熱で歪んだねぇ。さて…… それじゃ行くとしますか」
街道を駆ける。いくつもの骸を越える。
「おらっ!」
二メートルはあろうかという蠍のようなマモノにブレードを突き刺す。蠍の巨大な鋏が迫る。宙返りで避ける。
「痛ぇっ」
しまった。若い時と同じように動こうとすると腰にクる。
「あたたた…… 歳だけはとりたくないねぇ」
それはそうとして拳銃を抜き、大蠍に炸裂弾を撃ちこむ。
しぎゃっ、と妙な鳴き声を上げてマモノが倒れる。それを乗り越え次が迫る。虎の背中から蜘蛛の足が生えたような意味不明な体。針のような脚を突き出してくる。ブレードで弾きそして節に叩きこむ。虎蜘蛛は体を反らして逆側の脚を突き出す。あっヤバ腰……
「っとあぶねぇ」
逆手に持った予備のブレードでなんとか弾く。そして一撃炸裂弾。
倒れ込む虎蜘蛛。改めて周囲を見回すと、俺は包囲されていた。
「…… いくら守るのが得意と言ってもねぇ」
大蠍と虎蜘蛛に刺さったブレードを引き抜き、1本をブレードホルダーへと戻す。正面から飛びかかってくる蝙蝠型のマモノを炸裂弾で撃ち落とし、後ろから滑り込んでくる蜥蜴型のマモノの眉間にブレードをぶっ刺す。左から飛び込んで来た鳥人のようなマモノに炸裂弾を一撃。反動で右側に向いた銃口から吐き出される弾丸が獅子と戦車が混ざったようなマモノの砲塔付近で炸裂する。
上空から強襲してくる双子の翼竜のマモノに炸裂弾を……
「……おっと」
一撃しか残っていなかった。咄嗟に予備ブレードを取り出し、心臓を狙って突き出す。少し遅れてしまったせいか翼竜の爪で右腕が少し抉れる。
痛みに顔を歪めていると何やら地面が揺れ始める。
振り向くと、三メートルはあろうかという巨人型のマモノが一歩、また一歩と近づいていた。
「マズった……へへっ、ここで終わりかよ」
左腕でブレードを持ち上げる。全ての力を使い、走り出す。巨人が腕を振り上げる。手に持ったブレードを投げる。巨人の足に当たる。姿勢は揺らいだが転倒には至らない。
「貰ったぜ……!」
股下を抜け、ブレードを叩きつける。
── これで終わりなら良かったんだがなぁ。
巨人を仕留めて振りかえると、まだまだ絶望的な量のマモノ。
ため息をついていると、高速で後ろから何か近づいてくる。
「流石オッサン。生きていやがった」
「遅ぇぞ、アンジェ」
鉄板のようなブレードを担いだ少女がそこに立っていた。
「オッサンと違って私は調整に時間がかかるんですぅ」
「へっ、チビの時に魔物に食われて年取らなくなった半人半マモノのお前さんが何言ってんだ」
「う、うるさい!せっかく援護に来たんだから感謝しなさいよ!」
「へいへい」
マモノの方へ向き直る。この世もまだ捨てたもんじゃねぇなぁ。惚れた女に助けられるたぁ。ブレードを拾い上げ、構えなおす。
「今度こそ、守りきるぜ」
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