第四回作者人狼~『望』~ サブタイトル『楽』
「ん~、ティアードにしようかプリーツにしようか…… そもそもフリルとかついてた方がいいのかな?レースも意外と捨てがたいなあ…… 」
「モカは何着ても似合うでしょ。…… あ、そっちにかけてあるフレアスカート着てみなよ」
「え~、これ~?んっ…… 入るかな……」
ビデオ通話の先では親友の萌香が、さながらファッションショーの準備のように洋服を引っ張り出していた。
「モカって、洋服たくさん持ってる割にはそういうの決められないよね」
「たくさんあるから迷ってるんじゃ~ん!」
ぷくっと頬を膨らませたもモカの顔が映る。
「はい可愛いスクショした」
「もぅ~!」
顔を真っ赤にしながらまた画面外に消える。
「後で加工して送ったげるよ」
「自分でやるからいいも~ん!」
と、拗ねたような声が聞こえてきた。これだから弄りがいのある可愛いヤツは。
「で、どうかな? 」
「うんうん、似合う似合う」
こっそりスクショする。これもあとで私の萌香カワイイコレクションのフォルダに追加しておくとしよう。
「それでそれで? 結局どれがいいかな? 」
「正直どれも似合うから困る…… 」
「もぅ!ナナちゃんがデート服選び手伝いたいって言ったんじゃん!!」
「そりゃそうだけどさぁ」
本当に、萌香は何を着ても似合ってしまうのだ。ナチュラル、モノトーン、クラシック、キュート、ポップ…… どんなコーデでも着こなしてしまう顔の良さよ。まぁ、私としてもスクショの撮りがい…… もとい、服の選びがいがあるのだが……。
「よし、次いこう次。もっと洋服見せてよ」
「えぇ…… 仕方ないなぁ、えっと、こっちのクローゼットに…… 」
モカ、パンツ見えてるぞ。スクショしながら心のなかで教えてあげた。……白か。良い。
「あ、モカちょっと待ってそこにかかってるやつ」
「これ?」
ハイウエストのワンピースを手に取る。
「そうそう、それそれ」
「それにジャケット合わせてみよう」
「分かった、それじゃ着替えるね」
画面の外へと萌香が消える。
「…… はー可愛い。これだからやめられねぇぜ」
「ナナちゃん、心の声出てるよ? あとすごくオッサンっぽい」
「はは、ごめんごめん。でも、モカのデート服選び、私はすっごく楽しんでるよ?」
「それ、多分ナナちゃんの個人的趣味兼ねてるでしょ~?」
「さぁ?知らないねぇ」
「…… も~、そういうところ昔からホント変わんないんだから~」
「いやそれ抜きにしたってさ~、親友の初デートだよ?そりゃもう私が全力でコーデしてあげるべきじゃん?」
「なにそれ」
萌香の呆れたような笑い声が聞こえる。
「いやもういっそ、全モカのコーデ担当したいな」
「え~」
「萌香ちゃんおねが~い、専属ファッションモデルになって~?」
「い~や~だ~!絶対変なこと考えてるでしょナナちゃん!」
「ちぇ、バレたか…… 」
平和なやりとりをしている内に着替え終わったようだ。萌香がカメラの前にやってきた。
「…… で、どうかなぁ?」
「お~よく似合ってる。…… ってか、今までで一番かわいい」
「にゃっ」
萌香が変な悲鳴を出す。録音しておけばよかった。
「もう、急にそんなこと言い出さないでよ~。て……照れる…… 」
五千億枚スクショしたい顔ナンバーワン。これは永久保存版行きだ。
「よっしゃ、とりあえず明日のデートは大成功確定だね、私が保証する!!」
「ナナちゃんったら…… でも、ありがとね。ナナちゃんがこうやって本気で選んでくれて、私嬉しい」
嬉しそうに萌香が笑った。
「そ…… そっか……。へへへっ、それじゃ私は寝るから、明日のデート絶対に成功させてきなさいよ?あと惚気話聞かせてね」
「ふふっ、はーい。おやすみ、ナナちゃん」
「おやすみ、モカ」
***
「昔はあんなこと言ってたのに、今やこんなことになってるとはね」
私は、自分が仕立てたウエディングドレスを着た親友を見た。
「七海ちゃん…… うぅん、ナナちゃん。ありがとう」
「いやいや気にしないで。仕事だし、モカのウエディングドレスを仕立てられるなんて最上級の幸せだよ?…… しっかし、私専属のファッションモデルも今日で卒業かな」
「いやだ~。まだナナちゃんの専属モデルやりたい~」
「もう、そんな暇ないでしょ、モカ。……それに、お礼を言わないといけないのは私の方だよ」
萌香が不思議そうな顔をする。
「だってさ。モカがなんだかんだ言いつつも私にコーデさせてくれたおかげでデザインに興味が出てこうやって仕事に就けたんだし、一番の親友のウェディングドレスを仕立てられたんだし。これ以上の幸せはないよ」
「そっか。…… 私もナナちゃんにすっごく感謝してるよ」
照れくさそうに萌香が言った。……くそう、今の顔を写真に撮りたい。
「ナナちゃん、いつも私に元気をくれたし、割と変態だけどファッションセンスすごく良いし。あ、そういえば彼との初デートの時の服、覚えてる?」
なんかさらっとディスられた気がするけど敢えて聞かなかったことにしておく。
「えっと……ハイウエストワンピだっけ。あの水色のリボンの」
「そうそう。あれ着て行ったらね、すっごく可愛いって言われたの」
当たり前だ。私が考えた最高に可愛い萌香ちゃんだぞ。
「だからね、『私の最高の親友が選んでくれたの』って言ったらね、彼、めっちゃナナちゃんのこと褒めてくれてね。なんか、自分のことのように嬉しかったんだ」
「なにそれ、褒められてるのモカじゃなくて私じゃん」
「ふふっ、そうだね。でも、ウェディングドレスを選ぶってなったときにナナちゃんに頼もうって言ってくれたの、彼なんだよ」
「マジか」
そっか…… 理解ってんじゃねぇか、私こそが萌香ちゃんを最強に可愛くできる人だってよ……!こんど飲もうぜ!
「ふふっ、ナナちゃん、『今度飲もうぜ』って顔に出てるよ。…… 何かパーティするときはちゃんと呼ぶから。ね?」
「はははっ、楽しみにしてるよ」
まったく、萌香にはかなわないや。大好きな親友の笑顔がクソ眩しい。
「…… あ、もし子供ができたら、ナナちゃんにまた洋服のこと聞くかも」
「まかせなさい、この天才七海ちゃんが君の子供にぴったりと合う洋服を見繕ってあげよう。なんなら私オリジナルデザインの洋服作ってあげよう!」
「もう、調子がいいんだから」
大好きな親友と顔を見合わせて、ひとしきり笑いあった。
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