第三回作者人狼〜「未来」〜サブタイトル『紅茶』~

「ったく、アタシも貧乏くじを引いたね」

吐き捨てるように愚痴をこぼす。しかし仕事は仕事だ。愛機の足元に転がり、もはやただの金属の塊となった敵機の残骸を蹴る。

『警告:戦域レーダーに敵性反応』

「数は?」

『4機です。広域スキャンを開始します』

チッ。厄介なもんだ。スキャン結果が出るまでに次弾を装填しておくか。

『警告:LW-WS220、残弾4。RW-F2、残弾3』

耳障りな金属音とともに薬莢が排出される。

「パイロンの武装は? 」

『LP-KS7、残弾280。RP-フォトンセイバー、エネルギー稼働理論値、約98%』

「なら、F2を撃ち切ったらRPに切り替えるように自動制御してくれ」

『承認。武装自動制御システム稼働。RP及びRW切り替えシーケンス実行待機』

「広域スキャンは終わったか?」

『解析率、約76%』

「構わねぇ。現時点の解析結果を教えな」

『機体コード未解析。機体重量計算結果、軽量級2機、中量級1機、重量級1機。分析の正確率検証。…… 約89%』

「なら、軽量級からいこうじゃないか」

照準器を引っ張り出し、WS220を合わせる。

『狙撃距離計算。気温22℃、湿度』

「煩い。集中させろ」

狙撃目標地点まで3、2、1…… ここだ。

トリガーを引く。爆音が響いた。一瞬のフラッシュが視界を奪い去る。

『着弾確認。予測損傷率、78%程度。LW-WS220、残弾3』

「F2射撃用意。左に2度修正」

右のトリガーを引く。轟音と共に敵機に弾丸が吸い込まれていった。

『着弾確認。敵機戦闘続行不可能。残り3機。警告:RW-F2、残弾2。』

「そのままF2で。初撃で落とす」

『機体制御シーケンス。次弾装填。…… システム警告:敵機のスキャンを感知』

「気づかれたか…… 仕方ねぇ。LW、RW共にパイロンへ格納。LP、RPの武装のロックを解除しな」

『承認。フォトンセイバー、エネルギー稼働率概算92%。出力安定、システム制御を近距離戦闘用にシフト』

「やれやれ。近接戦闘はジョイント部品の摩耗が激しいから嫌いなんだよ」

『スラスター制御システムをマニュアル操作に変更します。身体駆動システム接続。モーショントレース同期率99.97%。システム、オールグリーン』


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アタシは、このクソッタレな世界に生まれたただの傭兵だ。タクティカルエリミネイションアームズ。通称『TEA』と呼ばれる戦術機甲を操縦してアタシたち傭兵は代理戦争を行う。ただ雇主の命令で殺し合えば金が貰える。昨日の戦友を撃ち殺した。昨日仲間を撃ち殺した敵が今日は仲間だ。アタシも明日死ぬかもしれない。そんな歪んだ毎日を生き延びてきた。


つい昨日のことだった。

「依頼ってのは他でもなくてね。君を私専属の傭兵として雇いたい。永久に」

目の前にいるこの腐れ縁の男は、優雅に紅茶を飲みながら提案してくる。

「はぁ?アンタ、何を言ってるか分かってんの? 」

「金ならあるさ。何、私にもやりたいことがあってね。君にとっても悪い話じゃないと思うが」

「…… 高くつくぜ? 」

「なら仕事の話だ。私は、この歪んだ世界の仕組みを正したい」

「へぇ」

「代理戦争などと言って国家間や企業間の争いを"傭兵"を使って解決する手法が、私は嫌いでね」

「そのくせにアンタはアタシを傭兵として雇って解決しようとするんだな」

「仕方のないことだ。仮に私が『代理戦争をやめろ』と言ったところで何も影響がない。だからと言ってすべての傭兵を雇って戦うのをやめさせるのは現実的じゃない」

「アンタ、本気で言ってるのかい? 」

「本気も本気さ。だから一部の腕利きの傭兵を雇って、他の傭兵を殲滅する」

「けっ。そっちのほうがよっぽど非現実的だろ」

「もし達成したならば、君の生活を永久に保証しよう。望むのなら何でも提供するさ」

「あぁ、そうかいそうかい。結構なことだ。アタシは金がもらえるならなんだっていい。だけどアンタ、世界を敵に回すなら物資はどう集める気だい? 」

「私が無計画に事を起こすとでも? 既に裏ルートからの入手経路は安定している。君の機体の整備パーツから弾薬、エネルギータンクまですべて取り揃えているさ」

紅茶を飲み終えて男は立ち上がる。

「それじゃ、早速最初の出撃だ。君の無事を祈るよ」

「安心しな、アンタを地獄に突き落とすまでは死なねぇよ」

「そりゃ結構。ぜひ長生きしてくれ。作戦資料は後で君のデータベースに登録しておくよ」

不敵な笑みを浮かべながら男は立ち去った。


─────────────────────────────


「行くよ、グリムリーパー」

漆黒の機体が飛翔する。

「隊長!高速で接近する機影発見!機体識別コード…… "グリムリーパー" ……? 聞いた事がないぞ!? 」

「遅い! 」

反応に遅れたその重機体の腹部接合部にフォトンセイバーをねじ込み、灼き斬る。

「なっ…… 隊長!すぐに離脱を! 」

その場に残る2機がライフルを構える。

「なぁんだ、こんな鈍い奴が隊長かい。このクソッタレな世界に、そんな生ぬるい気持ちで来たことを地獄で後悔しな」

すぐに反転して斬り離した重機体の胴体を蹴り飛ばし、弾丸を撃ち込む。

『LW-KS7、残弾240』

「よくも隊長を!」

「貴様…… 隊長を侮辱した罪は重いぞ! 」

土煙と響く爆発音。ライフル掃射が始まった。この静かな夜が台無しだ。

「やれやれ。そんな骨董品ごときでこのアタシを捉えられると思ってるのかい? 」

「…… ! いない!? 」

『ダウンブースター起動。高速降下開始』

地面と敵機が、急激に近づく。

「アタシの見る未来に、アンタらの席はないぜ」

轟音と共に、荒野の空に一筋の流星が煌めいた。


─────────────────────────────


「初日から予想以上の働きだよ。君を雇って正解だった」

「そりゃどうも。偶然他の隊が侵入してきただけさ」

なぜか補給品に入っていた紙パックの紅茶を飲みながら答える。

「で、今の状況は」

「君が派手にやってくれたおかげで、今そのエリアに3小隊ほど向かっている。君が撃破した部隊がMIA認定されたことで捜索が始まったようだね」

「チッ、ご苦労なこった。報酬は弾んでくれよ」

飲み切ってしまった紅茶のパックを放り投げ、愛機に乗り込んだ。

『システム起動。エネルギー稼働率理論値99%。RW、LW、武装ロック解除。残弾数問題なし。システム制御を狙撃用に設定。スラスター制御をオートに設定。各種センサー感度良好。機体損傷率概算9%。戦闘に支障はありません。システム、オールグリーン』

激しい戦いが待っているはずだが、アタシの頭はスッキリとしていた。

「これが紅茶の効果ってやつかい。悪くないね」

深呼吸をし、トリガーを握る。

「……行くよ、グリムリーパー!」

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