第4章〜みんなで、いもほり!〜
第1話
朝だ。この世界に来て、もう4日目になる。
ねずみたちはまだみんな寝ているみたいだから、起こさないようにぼくはそおっとはしごを降り、玄関の扉を開き、外に出てみた。
朝靄に包まれた森の光景が目に入ると同時に、澄んだ空気が体の中に入ってくる。
庭に目をやると、おじいさんとおばあさんの姿があった。2匹は昇ったばかりの朝日に向かい、手を合わせてじっとしている。
ぼくは、声をかけてみた。
「あの……おはようございます」
「ん……。やあ、おはようマサシくん」
「おじいちゃん、ずっと手を合わせて何してたんですか?」
「ああ……。それはね……」
おじいさんが答える間も、おばあさんは隣で目をつむりながら、太陽に向かって一心に祈りを捧げているように見えた。
「朝のお日様に、いつもありがとう、今日も一日よろしくと、お祈りしてたんじゃよ。わしらは、毎日お日様に向かって、お祈りしてるんじゃ。夕方には夕日に向かって、今日一日ありがとう、と、またお祈りするんじゃよ」
「ふむふむ……」
「今日もみんな元気なのは、お日様のおかげじゃ。お日様がなければ、何者も生きていくことはできない。じゃから、わしらは毎日こうして、お日様に感謝を捧げるんじゃよ」
「へえ……なるほど。じゃあぼくもやってみようかな」
「ほっほ。マサシくんや、共に祈ろう」
太陽のお陰で、ぼくらは生かされている。そんなこと、今まで考えたこともなかった。確かに太陽がなくなってしまえば、どんな生物も生きてはいけなくなってしまうだろう。
おじいさん、おばあさんは再び、太陽に向かい手を合わせる。ぼくも真似して、手を合わせ、目を
聞こえるのは——時折吹く風の音と、鳥のさえずりだけだ。朝日の暖かさが、ぼくの心もじんわり温める。不思議な気分だ。
「あ、おはよう、マサシ兄ちゃん!」
「おじいちゃん、おばあちゃん! おはよー!」
チップくんたちの声で、ハッと我に返る。
子供たちはいつも通り、朝から元気いっぱいだ。
おとうさん、おかあさんも起きてくると、またみんなで朝ごはんの支度が始まる。
「マサシ兄ちゃん、よく眠れた?」
「眠れたよー! おかげで元気いっぱいだよ」
「良かったあ! 今日もいい1日にしようね!」
「うん! チップくんもね!」
今日も、みんなにとって素晴らしい1日になりますように——ぼくはもう一度朝日に向かって祈りを捧げてから、台所に向かった。
♢
今日も9ひきとぼくで外の丸いテーブルを囲み、朝ごはんを食べる。ナスの入ったあったかいお味噌汁で、体はぽかぽかだ。
雲一つない快晴なので、予定通り午後からは、芋掘りに行くことが決定した。
「きょうはいもほりだ。おじいちゃんはいもほりのめいしゅなんだよ」
末っ子ミライくんも、とってもご機嫌のようだ。
おばあさんが、ミライくんの口をぬぐいながら尋ねる。
「ミライも、いつかは名手になりたいかい?」
「うん!」
「じゃあ、今日の芋掘りをよく見ておき。ミライもきっと名手になれるわ」
「わかった。ちゃんとみとくね。マサシにいちゃんも、めいしゅだね!」
「あはは、じゃあ名手になるためにぼくもしっかりやり方を勉強しなくちゃね」
その芋掘り名手のおじいさんの技、一体どんなものなのだろう。どんなに大きな芋が、掘れるんだろう。
「ほっほ、マサシくんも一緒に掘ろう。いいかいみんな、お昼を食べたら、みんなうちの庭に集合じゃ。よろしくの」
「はーい!」
♢
お昼ごはんの時間まで、いつものように9ひきのみんなは、思い思いに過ごし始める。
おとうさんは、林へお仕事をしに行き、トーマスくんはそのお手伝いに。
おばあさん、おかあさん、モモちゃんは、家の中の掃除の支度。ミライくんもお手伝いするみたいだ。
チップくん、ナッちゃんは、出かける準備をしている。
あれ……? おじいさんは?
おじいさんの姿がない。
家の裏にある、木造の物置小屋の方で物音がするので行ってみると、おじいさんはそこで、何かを探しているようだった。
「おじいちゃん、何か探し物ですか?」
声をかけるとおじいさんは、深いため息を1つついて答えた。
「ああ……、実はね……。昔にちょっと不思議なことがあって、そのことについての書き置きがあったはずなんじゃけど、見つからなくてねえ……。とても大事なことだったような気がするんじゃよ」
「……その不思議なことって?」
「それが、ずいぶん前のことではっきり覚えてないんじゃ……」
何だろう。ぼくは妙にそのことが、気になり始めた。
畑仕事などの道具や植物の種などがたくさん置かれた物置の中を、ぼくも一緒になってその書き置きとやらを探す。
「よいしょっと……。おじいちゃん、ここにもそれらしいものはないですよ」
「そうか……。ありがとう。うーん……」
引き続き探していると、バタバタと足音を立ててチップくんとナッちゃんが物置に入ってきた。
「マサシ兄ちゃんー! こんなとこにいたんだ。一緒に【まなびや】行こうよー!」
「あ、うん……でも……」
「はーやーくー!」
ぼくは探し物の手伝いを続けようとしたが、チップくんはぼくの袖を引っ張り、連れて行こうとする。
「あはは……、わしのことはいいから、チップたちと一緒に行っておいで」
「あ、うん……。じゃあ、行ってきます。おじいちゃん、すぐに見つかるといいですね」
「ああ、ありがとう。それじゃお昼に、待ってるからの」
おじいさんが体験した不思議なことって、一体何なのだろうか。そしてそれに関する、大事なことが書いてあるという書き置きの正体とは——。
だけどチップくんたちはそんなことを気にも留めず、いつも通りの元気な笑顔を見せる。
「えへ、マサシ兄ちゃんも誘いたかったんだー、“まなびや”。今日は川下に住んでるおじちゃんが、先生してくれるんだ」
「“まなびや”のこと、おとうさんから詳しく聞いたよ。楽しみにしてるね」
「えへ、マサシお兄ちゃんも一緒なの、すっごく楽しみー!」
「ふふ、ナッちゃん、楽しみだね!」
ぼくは、チップくん、ナッちゃんと一緒に、川下の方までノンストップで走った。
朝ごはんをしっかり食べたからなのか、はたまたぐっすり眠れたおかげなのか、ぼくはチップくんたちの足に楽々ついていくことができた。
♢
川下の方へ駆けていくと、丸太を組み合わせてできたログハウス風の建物が見えた。そのすぐそばの庭で、7匹のねずみたちが輪になって、みんな楽しげにお話している。
「おじさーん、おはよう!」
「おはよう、チップくんにナッちゃん。待ってたよ。はい、お茶」
麦わら帽子をかぶったねずみのおじさんが、ぼくらを迎えてくれた。このねずみのおじさんが、先生なのだろうか。
「おや、ニンゲンさんの新しい仲間かい?」
「あ、はい……。色々あってチップくんたちのところでお世話になってます」
「そうか、よろしくね。僕はミックだよ」
「マサシです。よろしくお願いします」
「ようし、じゃあ今日はこのメンバーで始めようね」
なんだか想像してたのと違って、びっくりした。
ぼくらの世界の学校では、先生が教壇に立って生徒は席に座り、ひたすら先生が一方的に話す授業を聞いたりノートを取ったりしてたから、同じような感じなのかなと少し身構えてしまっていた。そういえば出席番号で当てられて先生に質問されるの、とても嫌だったなあ。
だけどこの“まなびや”では、丸いテーブルを囲み、先生も含めてみんなで学び合っているように見える。先生と生徒が、対等な雰囲気だ。
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