第38話 トゥルース
次の日の昼、驚くべきことがおこった。なんと長谷部が見つかったのだ。
彼女は生きていた。学校の裏山で、衰弱して倒れているところを保護された。私は朝に鳴っていた救急車のサイレンが、長谷部のもとに駆け付けたものだったことを理解した。何はともあれ、無事でよかった。
長谷部は幸い命に別状もなく、大した怪我もしていないようだった。昼休みには学校にきて、
「おはよう……」
と私に言った。円藤には挨拶をしない。
「おはよう、眞子ちゃん。大丈夫?」
「うん……」
長谷部はうつむいて答えた。大丈夫ではなさそうだ。
「何があったの?」
「……」
うつむいたまま、今度は答えない。すると円藤が、
「死ねなかったんでしょ?」
と言った。
え? 死ねなかった?
「ちょっと眞子ちゃん。何で死のうとしたの?!」
私はそう尋ねたが、長谷部は黙ったままだ。そしてまた円藤が言った。
「怖くなったんでしょ? すべてがバレるのが」
長谷部はビクついた。
「とりあえず原口先生殺害を皮切りにね」
「……」
「あれはあんたが殺したんでしょ?」
「ちょっと円藤さん!」
私を無視して、円藤は続ける。
「柳沢亜由美を至近距離で見たのってあなただけ。死人が殺人を犯すなんて超常現象、普通に考えたらありえないわ。おそらくは自分で殺して、柳沢亜由美が殺したことにした」
私は話についていけなくなった。でも柳沢亜由美は私も見た。長谷部だけではない。
「待って、円藤さん。私だって柳沢亜由美を見てる。麻奈ちゃんが亡くなった日、私と葉月ちゃんを襲った……」
「まだ分からないの?」
円藤は私を見て、こちらに車椅子を動かす。そして手元からカッターナイフを取り出すと、長谷部の三つ編みを掴み、その間にカッターを入れて思いっきり引き裂いた。
「ちょっと、何するの?!」
私は声を上げた。長谷部は動じなかった。髪がほどけ、長髪が長谷部の顔を包む。
「あっ……」
今度は小さい声を、私は上げた。
髪を下した長谷部は、私の見た柳沢亜由美に瓜二つだった。
「うそ……、眞子ちゃん。なんで……?」
私の胸に衝撃が響く。
「なんで?! なんでよ!!」
叫ぶと同時に、涙が溢れた。ずっと友達だと思っていたのに。前田だけでなく長谷部まで……。裏切られた悔しさとショックが私を包む。
「あーあ……。泣かせちゃった」
円藤が冷たく言った。それを聞いて、長谷部は膝から崩れ落ちる。
「私のことが嫌い?」
円藤の言葉は嫌味のようだ。長谷部はそれに頷く。
「殺したいでしょ?」
またも、長谷部は頷く。
「殺せば?」
しかし今度は頷かない。
「できないの?」
「円藤さん!」
見かねた私が言葉を遮る。すると円藤は私を睨み、話を続けた。
「へー、友達の前ではできないんだ。今まで何人の人間を殺してきたかさえ分からないのに。やっぱ、臆病なんだね。いじめられっ子の長谷部眞子ちゃんは……」
その刹那、長谷部は立ち上がると円藤の手からカッターを奪った。
「ちょっと! 何するのよ?!」
車椅子を思いっきり引き倒し、円藤は床に倒れこむ。
「やめて眞子ちゃん!」
私は叫ぶが、長谷部は円藤にカッターを向ける。
「きゃー! 助けてー! 誰か! 先生!」
円藤は起き上がりながらそう叫んだ。長谷部は円藤の首筋にカッターを近づける。殺すつもりだ。
「やめなさい!」
私が助けようとする前に、羽生刑事たち警察と北沢先生が教室に飛び込んできた。
「どうしてこんなことをするんだ!」
すぐに警察が長谷部を捕らえ、北沢先生が円藤を保護する。私は呆然として、動けない。
「円藤さん、大丈夫かね?」
「はい……。ありがとうございます、北沢先生」
保護された円藤は私を見て、少し笑った。おそらく警察と先生はすでに待機していたのだ。だから円藤はあんなにも強気な態度がとれた。
長谷部はそのまま現行犯逮捕された。
「本田さんも大丈夫か?」
北沢先生が私にも声をかけてくれたが、私は頷くことしかできなかった。
長谷部は顔を伏せながら、ずっとすすり泣きを続けていた。
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