第31話 ストーキング
警察に電話したが、時すでに遅し。西川先輩は下宿先で遺体となって発見された。私との電話が事件の鍵らしく、前よりも長く事情聴取を受けた。
黒髪で、中学校の制服を着た女の子。西川先輩が亡くなる間際にそう言ったと言っても、警察は信じられない様子だった。
「中学生とは言っても、子供がこんな事件を起こすかね」
そんな感じだった。
「でも、前だって、原口先生が亡くなった事件だって、犯人は制服を着ていたんですよね」
あの事件もまだ解決していない。
「そうは言っても、ねえ」
私たちの担当である
「変質者が女子生徒の制服を着ていたのかも」
隣の若い刑事(名前は知らない)が言った。
「確かにな。いずれにしても亡くなったのが山蕗高校の生徒さんだというのに、犯人が君たちの中学の制服を着ていたとは、実に興味深いね」
羽生は笑いながらそう言った。
今回の事件で、警察もやっと本腰を入れて捜査をしてくれるようになった。原口先生が殺害される前まではまともに取り合ってもくれなかった。川島先生も永友も事故だと処理された。今思えば、あれも事故ではなかった永友は何かに怯えていた。
何はともあれ、前田が犯人じゃなくてよかった。気が付けば四人だけになった教室で、私たちは仮担任の先生の授業を受けた。9月も終わり、10月に入る。
学校は大した出来事もなく、何も変わらなかった。ただ、秋特有の虚しさが何となく漂っていた。
警察はちゃんと調べてくれているのだろうか。気がかりなことは全て話した。
「アナタ モ コウナルノヨ」
西川先輩が殺されたとき、犯人が私に言い放った言葉だ。音声を加工し、ノイズを適度に入れれば人工的に不気味な音にすることはできる。警察はそう言った。でも、私にだってそれくらい分かる。呪いなんて馬鹿げたものも、今は信じていない。
それよりも早く犯人を捕まえなさいよ。そう言ってやりたかったが言えるはずもなく、とぼとぼと私は事情聴取を終えて帰ってきた。
10月になり、肌寒い。あの時と微妙に似ている歩き方で、寒い中家に帰る私。帰りながらふと、虚しさが募り出す。
「何しているんだろ、私……。うっちー、永友さん、川島先生と原口先生、西川先輩……」
亡くなった人たちのために犯人を捕まえるべきなのに、毎日ただ授業を受けているだけ。はじめはそれでよかったんだけどな。
いわば、関係ないいじめとその復讐劇に巻き込まれただけだ。私は何も関係ないはずだった。でも今は違う。私が転校する前に亡くなったクラスメイトも含めて、みんな私に関係があったと思っている。何としても、この事件を解決させたい。
これはこのクラスの事件で、私はこのクラスの一員なのだから。
そう思いながら家に着いたときだ。真後ろの植え込みから音がする。
「?!」
気になって振り向くが、植え込みには誰もいない。
まただ。10月に入ってから、私は後を付けられている気がする。特に家に帰るまでの一人の時間だ。
怖いと思った私は、ママと警察、長谷部と前田に相談することにした。これはただのストーカーなのか。それともこの事件を起こしている殺人鬼なのだろうか。
「それ、気を付けたほうが良い気がする」
長谷部と前田に相談すると、前田からこう言われた。
「なんで?」
「今、どうして私たちが何事もなく学校生活を送れていると思う? 10月に入ってから、誰も殺されていない」
「それって?」
「つまり、今生き残っているメンバーには殺される理由が揃っていないの」
前田は続けた。
「私は日記に雪の降る日に殺されると書かれていた。でも、まだ10月で当分雪は降らない」
すると前田は隣の長谷部を見た。
「眞子ちゃんはこのクラスで最後から二番目に殺すと書かれていた。でもこのクラスにはまだ4人いるわけで、必然的に眞子ちゃんは殺せない。クラスで一番最後に殺すと書かれていた円藤さんも同様」
「つまり、私と麻奈ちゃんが死ななければ、眞子ちゃんと円藤さんは殺されないってこと?」
「うん、そういうこと。そして恵果ちゃんはこのクラスで唯一、殺される条件を決められていない」
「……」
私は柳沢亜由美とは関係ないと言おうとしたが、言えなかった。今まで関係ないはずだった、原口先生や西川先輩が殺されているのだ。私だって殺されたっておかしくない。
「こんな言い方悪いけど、今一番狙われているの、麻奈ちゃんだよ」
そう言われても何も言えなかった。
「……怖い」
ただそう漏れた。
「とりあえず警察に言おうよ」
長谷部が心配そうな顔をした。
「そうだね、わかった」
あとで羽生刑事に電話してみることにする。捜査は下手でも、私一人の安全くらいは守ってくれなきゃ困る。
「なるべく一人でいないようにしましょ」
前田が提案した。そんなこと前から思ってはいたけど。永友と内田はともかく、岡崎は一人でいるときに殺された。誰かが側にいたら、少なくとも誰かと連絡をとっていたら、岡崎は死なずにすんだかもしれない。
「そうだね。でも私たち、帰る方向が違うんだよね」
「警察についてもらえば大丈夫じゃない?」
「うん……」
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