第24話 テイクユアマークス
向日葵は実在していた。バス停前での遭遇のあと、私たちは西川先輩に向日葵とのコンタクトをとってもらうことを頼み、地元へと帰った。西川先輩の自宅の番号と私の番号を交換する。しかししばらくしても先輩からの連絡はなかった。部活の大会が忙しいのかもしれない。三年だから最後だし。
向日葵にさえ会えれば。簡単そうに見えたそれは、なかなかうまくいかなかった。そうしている間に、一学期が終わった。
長谷部も退院し、六人に戻ったクラスで一学期最後のホームルームは行われた。臨時担任を引き継いだ北沢先生が、
「えー、中学最期の夏休みですが、身体に気を付けて、また元気な姿を二学期に見せてください」
としめた。
のんきね。私がそう思った。北沢先生が呪いのことを知らない。私たちが置かれた状況なんてわかるはずがないのだ。頬杖をつきながら私は考える。
「起立」
ホームルームが終わる。
「礼」
久々に長谷部の号令だった。先生が教室から早々と出て行き、私たちは片づけをはじめる。置き勉ばかりの内田が一番帰宅準備が早い。
「一学期おつかれ!」
「お疲れ、うっちー」
私らしからぬ元気な返事だ。前田も元気よく挨拶する。
「お疲れさま。あのさ、夏休みどこか行くって言ってなかった?」
こんなに元気な前田は珍しい。
「うんうん! どこ行く?!」
急に聞かれて黙る私たち。
「はずきんぐはどこがいい?」
「えっ、うち?」
岡崎は少し考えて、
「やっぱ、海かな」
と返した。
「海!」
内田の声に、みな思い思いの反応をする。
「いいね、海いきたい!」
私は心躍る。海なんて何年振りだろう。
「まこっちゃんも行こうよ!」
内田は話に加わっていない長谷部にも声をかける。
「え、海? いいけど……」
長谷部も前田も岡崎もうきうきしているようだ。
「じゃあ海は決まりとして、どこいく?
前田がとりあえず近場で海水浴場がある街を挙げる。
「
長谷部がそう言うと、
「うちも」
と岡崎も同意する。
「じゃあ行先は
内田の一言で話は進む。
「いつにする?」
「クラゲが出るし、七月がいいな」
前田の提案。私も、
「うん、七月がいい」
と賛同する。
「みんなも大丈夫?」
「うちはいいよ」
「私も」
「おっけー。七月で都合がいい日教えて!」
企画はそのままテンポよく進み、来週の月曜日に
「月曜日、お母さん仕事休みだから、乗せてってもらえるか頼んでみるね」
前田がそう言う。はじめは電車で行く計画だったのだが、呪いのこともあって
「わかった。だーまえよろしく!」
内田は頭をさげる」
「うん、まかせて」
話に夢中になっていると、お腹が空いてきた。終業式は午前授業でもうお昼過ぎだ。
「いろいろ決まったし、今日は帰りますか」
私たちはそう言って教室を出る。
「あっ……」
すると内田がさっきまでのテンションとは違うトーンでつぶやいた。
「まどちゃん……」
話に夢中になって気が付かなかったが、円藤はとっくに一人で帰ったのだろう。ヒステリーを起こした事件以来、円藤はクラスで孤立している。とはいっても、彼女以外の五人の仲が良すぎて、円藤が馴染めていないといったほうが正しいかもしれない。もちろん内田だけは円藤を気遣い、友達であり続けていた。
「ねえ、みんな。海に行くの、まどちゃんも誘っていいかな?」
内田が控えめに尋ねる。どうせ誘ってもこないと思うけど。
「いいよ。あの子が来るとは思えないけど……」
私の代わりに前田がそう言った。あの事件以来、一番気まずくなったのはおそらく前田だ。
「ありがとう!」
内田はすごく嬉しそうな顔をした。私たちの忘れられない夏休みは、こうして幕を開けた。
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