第13話 アンエクスぺクティンド

 私と原口先生、前田、岡崎の4人が一緒に教室へ戻ってきたので、長谷部と内田は驚いたようだった。

「恵果ちゃん大丈夫?」

 長谷部が言った。

「うん。もう大丈夫」

「よかった」

 私の様子に長谷部と内田は安心したようだ。

「うっちー。助けてくれてありがとう」

「いいって。あの時の借りを返しただけだし」

 内田はちょっと照れ臭そうだ。続けて岡崎が頭を下げた。

「みんな、迷惑をかけて本当にごめんなさい」

 そして手紙のこと、向日さんのこと、この惨劇は呪いではなく何者かが起こしている可能性について、原口先生を中心にクラスにいるメンバーにも話した。

「じゃあさ、ぐっちー先生の言う通り、その向日さんを見つければ何か手掛かりがつかめるってこと?」

 内田が尋ねる。

「ええ、そうよ」

「先生は何か知りませんか?」

「それがね、その向日さんがどこに住んでいて、どこへ進学したのか、いまいちはっきりしないのよ。卒業アルバムさえ調べれば、わかるのだけれど……」

 調べましょう。私がそう言う前に、前田が答えた。

「確か、山蕗やまぶき市の高校に通っているって聞きました」

 山蕗市。隣県の街だ。

「山蕗市……。そう言えば去年、一人だけ県外の高校に進学した子がいたわね」

「それってどこの高校かわかりますか?」

「さあ……。でも山蕗市には男子校と共学の二校しか高校がないから、あそこしかないわね」

「山蕗高校」

 前田のつぶやきに先生がうなずく。

「ねえ、山蕗高校に行って、向日さんを探さない?」

 私の提案にみんなは驚く。

「いいんじゃないかしら」

 驚いたあと、原口先生がまず言った。

「私も賛成!」

 内田も手を挙げる。

「決まりね。今度の日曜日、みんなで山蕗高校へ行ってみましょう。先生も付き合うわ」

「ありがとうございます」

 私は頭を下げた。

「いいけど……」

 長谷部は何かを言いかけていたが、前田がそれを遮る。

「私も行く」

 そのあとで長谷部が再び話をはじめる。

「でも、その向日さんは恵果ちゃんが生まれ変わりだって思っているんでしょ? そんな人の前にわざわざ行くなんて……」

 すると前田が、

「大丈夫だよ。手紙にも書いてあったけど、向日さんは誰が生まれ変わりかわからないのよ。私たちの顔も覚えていないはずだから、恵果ちゃんが転校生なんて気づかないよ」

「あっ、そうか」

 長谷部は納得したようだ。こういうところは委員長のくせに天然だな。私はちょっとおかしくなって、

「意外と天然なんだね」

と思わず口にする。

「え? そうかな」

 戸惑う長谷部。

「そうだよ」

 前田も笑いながら、

「眞子ちゃんはどうする?」

と聞く。

「もちろん行くよ。私は委員長だし」

 天然ながらも真面目な顔つきで答える。

「うっちーたちは?」

 前田が内田と円藤のほうに顔を向ける。

「行こうかな。まどちゃんも行くよね?」

 しかし円藤は冷たく、

「私はパス」

と断る。

「なんで?」

「日曜日はバイオリンのお稽古があるから」

 その冷たい声はどこか悲しげにも聞こえた。

「わかった。頑張って」

 内田は円藤をそう励ますと、

「私も行く!」

と私たちに向きなおった。意外だ。円藤が来なければ、内田は絶対に来ないと思っていた。

 これで私、前田、長谷部に内田と原口先生が山蕗高校へ行くことを決めた。残るは岡崎。まあ行かないだろうな。私はそう思っていた。しかし岡崎は、

「うちも、行ってもいいかな」

と言った。これも意外だった。今日は意外なことがよくある。



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