第6話 スポーツテスト
「なんでそんなことしなきゃいけないの?」
その日の帰りの会の後。私に岡崎はこう言った。私の「今日は危ないかもしれないから一緒に寝よう」提案。それは岡崎にあっけなく却下された。
「でも、岡崎さんが心配だよ」
私は言う。
「いつ殺されてもおかしくないんだし……」
「なに? 日記の事話したの?」
岡崎は前田と長谷部を睨んだ。二人は目をそらす。
「あなたには、関係のないことでしょ」
そういうと岡崎はそそくさと教室を出て行ってしまった。なにあいつ。せっかく親切にしてあげたのに。ばかみたい。
「前にも話したけど、あんな感じだったの」
私たち3人だけとなった教室で、前田が言う。
「岡崎さんだけじゃない。うっちーも円藤さんも、このクラスの誰一人として協力しようとしないの」
「どうして? みんなの命が危ないかもしれないのに……」
私は黙り込む。
「そうだ! 警察、警察に相談してみたら?」
長谷部が口をはさんだ。
「呪いなんて、そんなばかげた話、信じてもらえると思ってるの?」
確かにそうだ。私はまた黙りこんだ。
その日の夜は予報通り雷雨。私は何もできず、ベッドの上で雷鳴ができるだけ鳴らないように祈った。
しかし次の日はあっけなくやってきた。誰も死なず、学校に行くといつも通りのクラスだ。ただ、担任がいないから、ホームルームは原口先生。
一時間目は体育。昨日までの雨は止み、晴れ渡った空だった。体操服に着替えを済ませ、校庭に出る。
私が校庭に出ると、前田、長谷部、岡崎が朝礼台の前に腰かけていた。しかし誰一人としておしゃべりをすることはない。すごい静かだ。
私は昨日のことがあって、岡崎にも、長谷部と前田にも話しかけづらい。少しして、永友と内田、円藤が来た。車いすのため見学の円藤は制服のままだ。
相変わらず円藤と内田は仲良さそうで、なにかおしゃべりをしている。そういえば担任の川島先生は体育も兼任だった。先生が死んでから初めての授業だ。誰が体育の授業をやるんだろうと私が考えていると、ホームルームと同じように原口先生が来た。
ちょうどスポーツテストの最後の種目、持久走が残っていた。朝礼台の前に整列し、授業の挨拶をする。体操を終えた後、先生が言った。
「じゃあ今日は持久走なんで、先生が準備している間、アップとして軽く外周を走っておいてください」
外周。学校の周りを軽く一周する。
「うっちーがんば!」
制服のままの円藤はそう言って内田を励ました。
「ありがと!」
内田はそれに応え、早々と外周を走りに行った。小柄でバスケ部の彼女はたぶんうちのクラスで一番運動神経がいい。私もそんなに悪くないけど、走るのは好きじゃない。
一応、前の中学ではテニス部だった。ただ、アップの練習が一番嫌いだった。ラケットを握ってからの練習は本当に楽しいのに。
内田の後を追って、岡崎が走って行った。二番目に速いとしたら岡崎だろう。見るからにスタイルがいいし。
他の三人はどうなんだろう?
前田は……よくわからないな。でも長谷部と永友は特に遅そう。悪いけど、二人が速く走れるなんて想像もつかない。永友なんてすごい嫌そうな顔をしている。嫌そうな顔で、ちらっと朝礼台のほうを向いた。先生の手伝いをしている円藤がうらやましいのだろうか。
私はそんな風に永友を見ていると、こっちに向き返してちょっと目があった。気まずい。まあ入学以来ほとんど永友とは話していないけど。
私はそそくさと靴ひもを結びなおすと、外周に向かった。すると、前田と長谷部が追いかけてきた。
「本田さん、一緒に走ろう」
前田が私を追いかけながら言う。
「いいよ」
この二人とは朝、挨拶を交わしたくらいだ。
「私足遅いから、もしついていけなくなったら置いてっていいから」
長谷部が控え目に言った。やっぱり、足遅いんだ。
校門を抜け、坂道に差し掛かる。頂上近くまできて振り向くと、前田は真後ろにいたが、長谷部はもうかなり下である。まだ本番じゃないのに。
さすがに長谷部の体力のなさに、私は少しかわいそうになった。
「眞子ちゃん大丈夫?」
真後ろの前田が答えた。
「無理みたいね。本人も先行ってって言ってたし、先に行こ」
「うん」
坂を上りきると、学校の裏に出た。ここには小さな池がある。家二つ分くらいの「ため池」であり、水は汚く緑色に濁る。その向こうは林。
この学校は小さな山の中にある。木立の中は不気味な生温かさだった。池と学校の裏の間の道は、まだ舗装されておらず走るのには適さない。それになんとなく見覚えのある道である。もちろん授業で何度か来たけど。もっと前から……。
思い出した。学校の裏の池と林。何度もニュースで見せられた。バラバラにされた女の子。呪いの最初の犠牲者、柏木さんの遺体が発見されたところだ。私は怖くなって、足を速めた。
そうして林を抜け、坂を下り、校門に戻ってきた。校庭に戻ると内田と岡崎は水を飲み本番に備えている。私は呼吸をゆっくり時間をかけて整えた。いつもの倍はかかったな。少し遅れて、長谷部も戻ってくる。
「大丈夫?」
前田が聞いた。
「うん。ちょっと疲れちゃったけど、がんばるよ」
「祐子ちゃんは?」
「もうすぐ来ると思うけど」
しかし、しばらくしても永友は戻らなかった。
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