第5話 アンライクミー

 死を恐れる必要はないって?

 前田は話を続けた。

「眞子ちゃんとうっちー、それにまどちゃんはノートに書かれた『死ぬといわれてる日付』が明確にわかっているのよ」

「わかってるって? なんで?」

「うっちーは体育祭の日、まどちゃんはこのクラスで一番最後に殺すと書かれていたの」

「そして私はこのクラスで最後から二番目に殺すと書かれていた」

 前田が話し終えてから長谷部は言った。

「で、でも前田さんは大丈夫なの?」

「あ、私は雪の降る日に殺すって……だから心配いらないの」

 今まで冷静にみえた前田の表情に、一瞬だけ不安が表れた。

「私と川島先生は明確な日付は指定されてなかった。私は雪の日で。先生は葉月ちゃん、岡崎さんが日直の次の日に殺すって決められてた」

 そういうと前田はまたパラパラとノートをめくる。また赤い丸文字がびっしり。


☆☆☆


川島先生


あなたは私を助けれくれなかった


それどころか無視されたこともある


あなたは先生失格ね


あなたにはこれからおびえながら生きるのが似合ってる


あなたはいつ殺すのか教えない


でもそれはかわいそうだからヒントだけあげる


あなたは岡崎葉月が日直の日に殺す


それも私のようにクラスメイトをいじめた日


あなたの頭を半分にしてあげる


☆☆☆


 頭を半分。私の見た幻影に近い。少し寒気がした。

 でもこれではっきりした。あの時、どうして円藤はあんなにも強気だったのか。岡崎が日直の日。先生は生徒をきつく叱ることができなかったのだ。そして内田の頭を叩いた先生は、殺された。そしてもう一個わかったこと。

 それは岡崎だった。『岡崎が日直のいつかに日』に先生は殺される。つまり先生が死んだ今、岡崎はいつ殺されるかわからないのである。

「眞子ちゃんと前田さん、うっちー、まどちゃんは大丈夫だとして、岡崎さんと永友さんは大丈夫なの? あの二人はいつ死んでもおかしくないんじゃ……」

「いいのよ」

 長谷部が私の話をさえぎるように言う。

「どうせ助けようにも助けようがないし」

「ダメだよ! 何言ってんの」

 私らしくない台詞。だけど

「クラスメイトじゃないの?」

中学二年生の女の子らしい台詞。

「まあそうだけど……」

「二人のことが書いてあるとこ見せて!」

 長谷部の言葉をさえぎって、私は忙しくノートをめくる。


☆☆☆


岡崎葉月


私はあなたが嫌い


柏木や酒井といつも一緒になって私を笑う


だからあなたが嫌い


あなたの焼いた肌が嫌い


そんなに焼きたいなら


黒焦げにして殺してあげる


☆☆☆


 雨脚が強くなった途端、雷鳴が鳴った。今朝の天気予報で、今日は昼過ぎから深夜にかけて雷雨になると言っていた。

「これ、岡崎さんは知ってるの?」

 前田が答える。

「知ってるはずだよ」

「今日、岡崎さんが危ないかもしれない」

「なんで?」

「雷が岡崎さんの家にでも落ちたりしたら、家が燃えて黒焦げになっちゃうかもしれないじゃない」

「だからって私たちに何ができるの?」

「もし岡崎さんが危ないのなら一日中一緒にいればいい。岡崎さんを守ることもできるし、呪いの正体を突き止めることもできるかもしれない」

「呪いの正体?」

「自殺した子の霊が殺してるのか。それとも誰かが殺してるのか」

 そこでチャイムがなった。我ながら凄い。誰かのために必死になったことなんて初めてな気がする。

「だったら本人に聞いてみたら」

 前田はそう言って弁当のふたをとじる。

「ごめん。もっと早く言っとくべきだったね」

 長谷部は軽く謝った。

「ううん。二人が話してくれただけでよかったよ」

 私は愛想笑いして、弁当を片づけた。

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