第78話 いざ出陣

 時は元亀3年(1572年)10月3日、信玄が待ち望んでいた日がやってきた。


 「皆の者、これからの戦は武田家の命運を分ける。

我々が天下統一に向けて歩みを進めるために落とせぬ戦じゃ。

準備はよいか。」


 これに重臣たちが頷く。


 「これより武田家の西上作戦を御旗楯無に誓う。」


 こう言って信玄は家臣に命じて御旗と楯無鎧を持ってきた。


 「我々が必ずや天下を取ることを先祖代々に誓う。」



 「御旗楯無も御照覧あれ!!」


 「エイエイオー、エイエイオー!!」


 こうして武田軍は法螺貝の音に鼓舞されながら古府中を出陣した。


 以下が武田軍の進軍ルートである。


 古府中出陣

 諏訪高島城(長野県諏訪市)

 高遠城(同県伊那市)

 青崩峠(信濃遠江国境)

 至遠江


 また、この進軍の途中に織田信長が武田家との同盟を破棄し、

徳川家の居城である浜松城に援軍を送り込んだが、

兵数は3千程度と気持ちばかりの援軍だった。



 「御屋形様。」


 「おお、どうした幸隆。」


 「浜松城に織田方の援軍3千が到着した模様です。」


 「そうか、信長も随分消極的じゃな。」


 そう言って笑った信玄のもとにさらに嬉しい知らせが届く。


 「御屋形様。」


 「どうした、昌信。」


 「はは、美濃方面に進軍中の秋山信友殿から報告がありまして、

東美濃の豪族である遠山氏を味方につけたようにございます。」


 「おお、ということはあの岩村城を簡単に手に入れたわけじゃな。」


 「そのようでございます。」


 いつも北信濃を担当していた高坂昌信だが、今回は本隊に参加しており

その昌信からの報告によれば堅固な山城で知られる岩村城を

城主を調略することで無血で手に入れたという。


 (これで信長もうかうかしていられぬじゃろう。)


 こう思った信玄だが、信長が動く気配はなかった。


 (動かぬ方がやりやすいからよかろう。)


 信玄はひとまず浜松城の徳川家康に重きを置くことにした。


 

 「御屋形様、二俣城が見えてまいりました。」


 「この川に囲まれた城か・・・、落としにくそうじゃな。」


 武田軍の前に現れたのは北遠江の要害、二俣城だ。

天竜川の蛇行の内側に築かれたこの城は三方を川に囲まれた

大変攻めにくい城である。


 (力攻めすると損害が出るから嫌なのだが、

もし力攻めで落とせれば勢いがつくな・・・。)


 結局、少々の戦死者よりも軍団全体の勢いを重視した信玄は

珍しく力攻めを行った。


 「攻めかかれー!!行けー!!」


 侍大将、山県昌景の声が鳴り響くなか、武田軍2万5千が猛攻を仕掛けた。

最初は猛攻に耐えた二俣城だったが、倒しても、倒しても、

新手を繰り出してくる武田軍の作戦を前に城方は絶望し、

士気が下がった二俣城を総攻撃した武田軍が勝利を収めた。


 (さぁ、次は徳川軍本隊じゃ。覚悟しておれ家康・・・。)


 信玄は不敵な笑みを見せながら馬を進めた。


 年末の厳しい寒さの中にあっても、

武田軍の闘志は燃え続けているのであった。

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