第68話 小田原攻めへ

 「皆の者、これより関東を攻め、北条に一撃を与える。」

 「準備はよいか。」


 「ははー!!」


 永禄12年(1569年)8月、駿河の大宮城(今の富士宮市)を攻略し

甲駿国境を固めた武田軍は関東出兵に踏み切った。


 これに対して北条家も長年争ってきた上杉輝虎と手を組むなどをして

対抗してきたがその同盟の話を聞いた信玄はふん、と鼻で笑った。


 (北条は輝虎を頼りにしたようじゃが、輝虎が動くわけがない。)


 事実、この越相同盟は武田家に対する脅しだけであり、

輝虎が本気で動くことはなかった。


 「なぜこの上野から攻めるのですか。」


 上野の国に入った時、勝頼が信玄に尋ねた。

勝頼の考えは最終的に小田原まで攻めるのであれば

甲斐国から直接相模国に入った方が距離が短くていいというものである。


 「この度の戦、何のための戦であると考えておるか。」


 「・・・北条家と再び同盟を組むためですか・・・?」


 (・・・さすが勝頼だ、この戦の目標を理解しておる・・・。)

 (これが義信であれば北条家を倒すため、とでもいいそうじゃ・・・。)


 「そうじゃ。だからそのためには・・・。」


 「北条領内を蹂躙して武田は怖いという印象を与える、ですか?」


 「なんだ・・・、全てわかっているではないか。」

 「なぜわかっていることをわしに聞いたのだ。」


 「いや・・・、合っているかどうか確認したかったのです・・・。」


 「勝頼よ。」


 「はい。」


 「そなたは戦の仕方、そしてこの乱世での生き方を知っておる。

だから、まだ実績はないが自信を持つのじゃ。」


 「自信、ですか・・・。」


 「そうじゃ。勝頼は自信さえあればこの世の中を生きていける。

その力を持っているのじゃ。」


 「父上。」


 「なんじゃ。」


 「今度の鉢形城攻め、私の力を確かめとうございます!」


 「そうか!では勝頼に戦を一任するから頑張ってくるのじゃ。」


 「一任、ですか・・・。」


 「大丈夫じゃ。勝頼なら敵を恐れさせる力を持っておる。」


 「はい、頑張ります!」


 こう言って勝頼は戻っていったが、信玄はふとこんなことを思った。


 (そうか、勝頼は今でも諏訪四郎と呼ばれておるから武田家を継げるのか

不安になっておるのじゃな・・・。)


 信玄の読みは当たっていた。


 勝頼は古府中に戻ってきてからずっと悩んでいたのである。

だが、信玄はこの戦で強さを示すことが武田家当主への

第一歩であると思っていた。


 時は同年9月。

上野国から南下した武田軍は今の長瀞に近い武蔵国鉢形城を包囲した。


 「それー!攻めるのだ!北条勢を蹴散らせー!!」


 信玄に代わって軍配を持った勝頼は大声で号令を出した。

それを受けて武田軍2万弱が鉢形城を猛烈に攻め立てた。


 「武田軍は聞いていた以上に恐ろしや・・・。」


 城主の北条氏邦があまりに恐ろしくて腰を抜かすほどの猛攻であった。

しかし、信玄は城を落とすとは一言も言っていなかった。


 「勝頼よ、そろそろ潮時じゃな。」


 「はい、父上。」


 落城寸前まで追い詰めたが、武田家の目的は同盟復活なので

城主を死なせては北条側に怒りが募り同盟締結が困難になってしまう。

 そこで武田軍は引き上げてさらに南下し、随所での小競り合いで

強さを示しつつ、小田原に向かった。


 信玄は思う。


 勝頼はこの戦などで自信をつけていけば必ず大成すると。


 だが、最終的にどうなるかは勝頼次第なのであった。

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