第62話 驚きの来客

 「何じゃと!?あの蹴鞠小僧が門の前にいるとな!?」


 信玄は驚きを隠せなかった。


 なんと、駿河を抜け出したという今川氏真が今、躑躅ヶ崎館の門前にいるのだ。


 「御屋形様、いかがいたしましょう。」


 「うーむ、追い返すわけにもいかぬ。ひとまず通せ。」


 信玄は仕方なく氏真を館内に入れて話を聞くことにした。


 「もう当主は御免です、だから武田家に居候させてください!」


 「そ、そう言われても・・・。」


 信玄は困り果てたが、


 「いさせてもらう以上、どう利用されてもいいですから

とにかくいさせてください!」


 と氏真が涙ながらに訴えるので、


 「・・・仕方ない。気が済むまでいさせてやれ。」


 と氏真の申し出を受け入れた。


 「ああ、義信。ちょうどいいからあの空き部屋を案内してやれ。」


 「わかりました、父上。」


 こうして義信とともに新たな居住スペースに向かった氏真は

あることを思っていた。


 (この義信殿は優秀で戦も強いと聞く。このような人が

後を継いでくれたらな・・・。)


 「氏真殿、ここでよろしいか。」


 「随分と立派なところを貸していただいて申し訳ない。」


 「いいえ、構いませぬ。」


 その後、氏真はしばらく居候するのだが、次第に義信と仲が良くなってきた。


 「義信殿は素晴らしいお方で。」


 「と、とんでもない限り。」


 そんなある日、義信が氏真にこう言った。


 「たまには私の愚痴も聞いてくれ。」


 これに氏真が頷くと、義信は愚痴を吐き出したのだが、


 「少し待ってくだされ、義信殿。・・・信玄様の愚痴ばかりではないですか。」


 「・・・そうなのだ。実はな、私は父上にうんざりしている。

だから氏真殿のように姿を消したいものだ。」


 「・・・それであれば今川の君主になってはいかがで。」


 「何・・・?」


 「いや、駿河の方はこのわしがいないせいで当主不在になっている。

だがこのわしはもう当主は御免なのだ。だから義信殿に今川家を継いでもらう、

これはどうだ。」


 「なんと・・・、考えもしなかった。」

 「ただ、それで今川家が私のもとに固まるのか・・・?」


 「大丈夫じゃ、このわしの養子とでもすればこのわしの時より

よっぽど固まる。」


 「そうか、それは良い。」


 この作戦に興味がわいた義信だが、


 「氏真殿はいますか。」


 今川の家臣が氏真が甲斐にいることを突き止めてやってきた。


 (・・・わしは返されてしまうのか・・・?)


 こう思った氏真だが、信玄は飛び込んできた獲物をそう簡単には放さない。


 「ははは、確かに氏真殿はいる。じゃが、ただで返すわけにはいかぬ。」


 「ど、どうすれば戻ってくるのだ・・・。」


 「今川がこのわしの家来になるとでも言えば、戻ってくるかな?」


 「ぐぬぬ・・・!」


 結局、今川家の家臣は何もできずに戻っていった。

さらにこの事件で今川家の権威は失墜し、裏切り者が相次いだ。


 (ふふふ、今川家はこれで確実に滅ぶであろう・・・。)


 こう思い大笑いする信玄だが、この後に大変なことが起こるなど

想像もしないのであった。

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