第56話 一門の役割

 「あの政虎の機動力は凄まじい。」

 「思わず腰を抜かしてしまったわ。」


 信玄も驚嘆する政虎の機動力を前に戦では完敗だった武田軍。

政虎が越後に退いた後は調略を進めて結果的に領地を増やした信玄だが、

隣にいたはずの信繁と勘助の死はあまりに大きかった。


 「やはり我が軍も機動力をつけなければならぬ。」


 こう言った信玄だが、どうやってつけるのか聞かれ黙り込んでしまった。


 「どうしたらよいと思うか、勘助・・・。」


 ふと隣を見て気づく。

もう勘助はここにいないのだと。


 その後、しばらく悩んだ信玄だが、ある結論に達した。


 (政虎が軍勢を操れるのは、そのための準備を怠っていないからだ。)


 そして、信玄は動ける軍団を作るため、あることを始めた。


「よいか、これより軍団を再編する。」


信玄は上田原の時と同じように家臣団の再編を行った。


 家臣団筆頭はこれまで通り飯富虎昌が務める。


 「虎昌よ、これからもよろしく頼むぞ。」


 「お任せくだされ。」


馬場信春や高坂昌信なども現状維持となったが、

秋山信友などは所領、兵数共に増えたほか、

工藤源左衛門祐長が側近から重臣の仲間入りを果たした。


 「源佐よ、これからいろいろ大変だとは思うが役目を全うしてほしい。」


 「ははー!!」


 そして、今回の目玉は一門衆だ。

穴山信君や信虎の姉を祖母にもつ小山田信茂、そして亡き信繁の子、武田信豊に

信玄の2つ目の弟、武田信廉などが今回の再編で力を増すことになり、

譜代、股肱の家臣と一門の家臣でバランスと取りながら

家を盛り立てていく作戦である。


 (なんで戦場で活躍の少ない一門衆が使われるのか・・・。)


 譜代の家臣の一部からは不満も聞こえたが、

信玄は知っていた。

 ・・・一門衆は陰ながら活躍していると。


 さらに信玄は思う。

一門が陰ながらでもいてくれることで

自らが雷霆のように輝けるのだと。


 (一門は確かに戦場での活躍は少ないが外交や内政、さらに戦までの準備で

活躍してくれている。それに信廉などはわしの相談にも乗ってくれよう。)


 だから信玄も不満の解消のため説明を尽くすつもりだった。


 ただ、なかなか多忙な毎日で説明ができず、気づけば不満がたまっていた。

そんな中、長男の義信がそういう家臣の不満の相談役になっているという

話を聞いた。


 (そうか、義信がうまく不満を吸収してくれておるのか。)


 信玄は一時期の関係とは違って義信を信頼していたが、

陰では悲劇に向かっての時計が進み始めているのであった。

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