第47話 義信の長所

 「義信よ、話がある。」


 ある日の評議の後、信玄は義信を呼び出した。


 「何でしょうか、父上。」


 「おぬしが自分自身の長所だと思うことを聞きたくてな。」


 「長所ですか・・・、敵を恐れず、勇猛果敢に攻め込むことだと思います!」


 「ふむ、では逆に短所は何かあるか?」


 「・・・人の話を聞けないことだと思います。」


 「うむ。ではこの先、どう生きようと思っておる?」


 「短所である人の話を聞かないところを克服していきたいと思います。」


 「ふむ。・・・じゃが、変に短所を補おうとし過ぎると

かえって長所を失うことにもなりかねない。」


 「・・・では、どうすれば・・・。」


 「長尾景虎のようになれ。」


 「え・・・。」


 義信は見習うべき人物の意外さに驚きを隠せなかった。


 (景虎と言えば父上の宿敵・・・。)


 「よいか、義信。」

 「景虎は家臣の話を聞かぬという。じゃが、景虎は天才的な力を持っている。

だからわしとも互角に戦える。」

 「人とは強い者についていくものじゃ。」


 「ですが・・・。」


 「まぁ、景虎とは因縁の仲ではあるが、義信が学ぶべきことを

たくさん持っておる。」


 「では、景虎のように強くなれと・・・。」


 「そうだ。そのためには勉強が必要じゃ。」

 「義信は景虎ほど天才ではない。じゃが、戦術などを覚えて“秀才”になれば

少々人の話を聞かなくてもそれを補える。」


 「それは本当ですか!?」


 「ああ、本当だ。例えば家臣が意見を言ってきても、

それをすでに分かっていれば家臣は言う必要がない。」

 「何事も自分で判断できれば評議の時間が無くなって

その分無駄な時間が省ける。それは行軍の速さを生み、そして勇猛さを生む。」


 「なるほど。軍を動かす速さがあれば敵にとっては勇猛果敢に見える、

ということですね。」


 「うむ、景虎の戦いはまさしくそうだ。長尾の兵は決して強くはない。

じゃが、動きが速いことで相手は恐怖に感じるし、軍に流れができる。」

 「景虎のように一人で全軍を動かすのは容易いことではないが、

義信ならできると信じておる。」


 「父上に認めてもらえるよう、頑張りまする!」


 「そうじゃ、頑張れ!!」


 この親子の関係は一時期と比べてだいぶ良くなっていたのだが、

これには陰の立役者がいた。


 ・・・武田信繁である。


 信玄と義信、それぞれの性格に通じる信繁は、両者の関係が悪くなっては

間を取り持っていた。


 信玄は口々に言う。


 「今、この武田家の中で争いがないのは信繁のお陰である。」


 この武田家にとって信繁はかけがえのない人物なのであった。

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