第40話 病魔現る

 「なにか調子が整わぬ。」


 家臣たちも心配そうに目を配る。

晴信はどこかしっかりせず、熱っぽかった。


 「少しお休みになられてはどうですか、御屋形様。」


 側近の工藤源佐にこう促された晴信であったが、


 「大丈夫だ。放っておけば治る。」


 こう言って激務を続けた。


 時は弘治2年(1556年)8月。

このころ、越後では戦が繰り広げられていた。


 武田方の大熊朝秀と長尾景虎が越後国駒帰(今の糸魚川市)で激突した。

大熊勢は善戦したものの、最終的には敗れて今は武田領内に

逃げてきているという。


 「御屋形様、大熊朝秀殿が古府中に到着しましたが、お会いになりますか。」


 源佐の質問に晴信は


 (会って労いたいところだが、体調が優れぬ・・・。)


 と思い断ろうとしたが、


 (だが、断れば朝秀がどう思うか・・・。)


 こう思い無理やり会うことにした。


 「朝秀、ゴホン・・・ご苦労であった。ゴホゴホ・・・。」


 「ははー。」


 なんとか済ませたが咳が止まらなくなり、その後寝込んでしまった。


 「どうも風邪をこじらせてしまったようです。」


 「そうか・・・。」


 医者にはこじらせた風邪との診断を受けたが、

その後も良くなったり悪くなったりを繰り返し、

完治する様子が見られなかった。


 「監物よ、これは本当に風邪なのか。」


 晴信は医者の御宿監物に尋ねた。


 「・・・風邪でございます。・・・と言いたいところですが、

ここまで長く続くとなると・・・。」


 「・・・となると・・・?」



 「結核、というのも疑えません。」


 「何・・・?」


 晴信は言葉を失った。


 結核という病気は当時においては難病で、なんとか生きる年数を

少し延ばすことはできても基本的に治らない病気である。


 「わ、わしは早く死んでしまうのか・・・?」


 「大丈夫です、御屋形様!!無理をされなければ良い悪いを繰り返しながらも

あと2、30年は生きられまする!」


 「それはまことなのか!?」


 「はい。無理さえしなければ平均的な寿命までは確実に生きられまする。」


 「人生50年という言葉がある。わしもそこまでは生きられるのだな!?」


 「はい。体をいたわればいたわった分だけ生きられまする。」


 その医者の言う通り、晴信の症状はひとまず治まっていった。


 「いやー、長い風邪であった。」


 ひとまず家臣には風邪、と言ってごまかした。

実際に顔色も良くなり、家臣たちは安堵していた。


 ただし、もう一度同じことがあったらもうごまかすことは難しく、

機を見て話さなくてはならなかった。


 そして晴信は体をいたわるため

休む時は休むなど、体調に臨機応変に対応した。


 (わしはまだ死ぬわけにはいかぬ。しっかりと共存できるようにして

生き延びるのだ・・・!)


 これから先、晴信は家臣のみならず自らの体もいたわりながら

戦っていくことになるのであった。

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