第28話 憲政、越後へ

 「ほう、憲政がついに逃げたか。」


 天文21年(1552年)正月、古府中に関東管領上杉憲政が北条氏康に

追われたとの一報が入った。


 今の関東は北条氏の一強体制である。

正式には後北条氏と呼ばれる成り上がり大名の3代目、北条氏康は

関東平野の広範囲を奪い取り、関東の覇者になっていた。

 もともと関東管領として、関東の代表的な存在だった憲政も

今や北条氏に追われて逃れたという。


 「して、逃げた先は。」


 晴信は常陸国(今の茨城県)の佐竹氏あたりと踏んでいたが、

驚きのところだった。


 「越後の長尾家のようで・・・。」


 「何!?祖父の仇の長尾家に逃げたのか!?」


 祖父の仇、それは憲政の祖父、上杉顕定は景虎の父、長尾為景に

討たれた過去があるからだ。


 (ふむ、憲政は過去のことは考えず捨て身で行ったのだな。)


 ここに憲政の必死さが窺える。


 (だが、これで北条家と武田家に共通の敵ができた。

さすれば北条家との同盟交渉が進みやすくなるやもしれぬ。)


 そう、北条家と武田家は前から今川家も入れた三国同盟の交渉を

続けていた。

 だが、いろいろ食い違いもあって交渉は進んでいなかった。


 その晴信の予想はピタリと当たることになる。


 その年の7月には景虎の支援を受けた憲政が巻き返し、

武蔵国北部(今の埼玉県)の一部まで勢力を回復した。


 すると、危機感を強めた北条氏康は今川、武田との同盟交渉を進める

ことにしてこの辺りから交渉のスピードが加速した。


 そして大筋合意した3家はそれぞれ婚姻関係を結ぶことにした。

武田家と今川家はすでに結ばれているので、残すは北条家と武田家、

そして今川家と北条家となった。


 「北条家に嫁がせることになった。いろいろ不便もあるかもしれぬが

周りの者とよく相談して乗り切るのだな。」


 晴信も娘を北条家の嫡男、氏政に嫁がせることになった。


あとは細かいところをつめれば同盟締結である。

今川家の方には穴山信友を、北条家の方には北条の領地に近い

郡内小山田家の当主、小山田信有をそれぞれ交渉に向かわせた。


 三国同盟締結は目の前に迫っているのであった。



 「ほーう、氏康殿がそんなことを。」


 晴信はなんとも言えぬ表情で続けた。


 「同盟を結んだわしと義元殿、氏康殿が会談とな・・・。」


 「しかし、一同に会うのは身の危険が・・・。」


 虎昌が不安げな表情を見せたが、晴信は


 「面白そうではないか。」


 と行く気満々だった。


 結局、氏康の提案通り3者が会談をすることになり、

場所は駿河の善徳寺と決まった。


 だが、その前に晴信にはやるべき事があった。


 ・・・村上勢の一掃である。

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