第22話 塩尻峠必勝の策

 天文17年(1548年)も7月に差し掛かったころ。


 信濃国松本平(松本市付近)に本拠を構える小笠原長時がついに

動いた。


 長時は軍勢を率いて諏訪と松本・塩尻の間にある塩尻峠に布陣して

諏訪をうかがった。

 

 それに対し、武田軍もすぐさま出陣した。

実はこれまでに晴信は領内各地にのろし台を設置しており、

敵の情報がいち早く入るようになっていた。


 そして諏訪の上原城まで来た武田軍だが、ひとつ問題があった。


 小笠原勢はすでに塩尻峠の頂上に布陣していた。

戦をやるうえで山の上にいる敵と戦うのは不利である。


 (どうしたものか・・・。)


 晴信が悩んでいると、山本勘助より提案があった。


 「こういうのはどうでしょうかな。まず別動隊を編成しまして

裏道より小笠原軍の陣の後方に向かわせまする。そのうえで本隊を動かす

構えを見せますれば、敵は頂上より降りて本隊を追い落とそうとするでしょう。

そこに別動隊が小笠原軍後方を突いて小笠原軍を追い落としまする。」


 「おお!それはなかなか・・・。」


 「ただ、それに適当な裏道があるかというと・・・。」


 「うーむ・・・。」


 晴信が偵察不足を痛感していると、


 「御屋形様。」


 そこに現れたのは馬場信春である。


 「それがし、小笠原軍が峠に来る前に一度、周辺を調べてございます。」


 「おお!それで適当な道はあったか!?」


 「はい、馬は通れませぬが歩きなら通れるかと。」


 「よし、ではそれで行こうと思うが異論はあるか、虎昌。」


 「異論なし。」


 「では、別動隊は馬場信春に任せる。よいな。」


 「ははーっ。」


 こうして、武田軍はまずひそかに別動隊が行くことになったが、

信春が出発直前に本陣にやってきた。


 「金堀衆を借りてもよろしいでしょうか。」


 金堀衆とは武田軍の部隊の一つであり、いつもは金山で働いている者たちだ。主に城を攻める際に金山の坑道を掘る爆破が城攻めに生きるとして戦には

いつも帯同している。


 「何かあったのか。」


 聞き返すと、その答えに晴信は感心した。


 「予め地元の人に聞いてみましたところ、前に小笠原勢が裏道に

石を積んでいるを見た、と言っておりました。」


 「なるほど、その石積みを壊すためか。」


 「はい。敵は恐らく裏道からは来れないであろうと油断しているはず。

だからそこを越えて奇襲すれば間違いなく峠の下に落ちていくでしょう。」


 「うむ。金堀衆を預けるから任したぞ、信春!」


 「ははーっ!!」


 こういって信春は別動隊を率いて出発した。


 

 この作戦が成功するかどうかは、別働隊大将である信春の

手腕にかかっている。


 ただ、塩尻峠の空はどちらとも言えない微妙な表情をしているのであった。

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