第270話:勇者と剣聖と鑑定士 11
部屋の中は俺が思っていた以上に広く、サニーに潰されながら寝る、ということはなさそうだ。
全員が別々の部屋というのも予想外で、てっきり男性と女性で別々くらいだと思っていた。
「本当にいいんですか?」
「俺と真広は同じ部屋でも問題ないが?」
「うんうん、僕もいいよー」
「あぁ、であれば私も構いませんよ」
新に続いて森谷やライドさんも同じように口にしたものの、ラグダさんやイリーナさんは首を横に振った。
「いいえ、なりません」
「私たちは皆様を疑い、剣を向けました。その不義理を清算せねばなりません」
不義理って、そこまでのことだろうか。
だって、従魔なんて伝説的な存在を連れてきたわけで、普通に魔獣が襲い掛かってきたと思われても仕方がないのだから。
「……わかりました。それじゃあ、ありがたく厚意に甘えたいと思います」
とはいえ、ラグダさんたちの厚意を無下にするわけにもいかず、俺たちはそのまま個室でゆっくり休むことにした。
「お食事はいかがなさいますか? 食堂もありますが、オズディスを堪能されるのであれば街へ繰り出されるのも良いかと思いますよ」
イリーナさんの言葉を受けて、俺たちは街へ繰り出すことにした。
とはいえ、ハクはもちろんサニーも連れていくのはさすがに問題があるかもしれない。
というわけで、今回だけはサニーに厩舎へ移ってもらいハクと一緒にいてもらうことにした。
「ギャウゥゥ~」
「何か美味しそうなものがあったら買ってくるから、大人しくしているんだぞ」
ものすごく寂しそうに見つめられたものの、俺たちの勝手で街の人たちを不安にさせるわけにはいかない。
サニーもそのことを理解しているのか、部屋に入りたいと訴えた時よりかは我がままを言わなかった。
……というか、俺に対しての我がままなら問題ないと思っているのかもしれないが。
「では、私がご案内させていただきます」
「よろしいのですか、イリーナさん?」
まさか案内までしてくれるとは思っておらず、先生が確認をしている。
「兵士長からは午後のお休みを頂きましたし……何より、経費で美味しいものを食べられるチャンスなんですよ」
隣にいた俺にははっきりと聞こえてしまい、イリーナさんはそう口にしたあと、先生にウインクをしながらニコリと微笑んだ。
「……うふふ。そういうことでしたら、お願いしましょうか」
「ありがとうございます!」
この二人、一緒にいたらものすごく仲良くなりそうな気がするな。
そんなことを考えながら、俺たちはイリーナさんの案内でオズディスの街へ繰り出した。
今でも視線はあるものの、単に興味があるという感じの視線が集まっている。
そこへ聞き慣れてしまった声が耳に届いた。
「おぉーい! また会ったな!」
「……ギース」
「なんだよ、なんで面倒くさそうな顔をしているんだ、アラタ!」
いや、面倒くさいだろう、お前のその態度は。
新も嫌そうな顔を浮かべているが、構うことなくギースは肩に手を回した。
「なあ、アラタ! どこに行くんだ?」
「……飯を食べに行くんだよ」
「おぉっ! だったら俺のオススメのお店に案内してやるよ!」
「いや、俺たちはイリーナさんの案内で――」
「いいよな、イリーナ!」
「……あー、まあ、いいんじゃないか?」
「んなあっ!?」
「ほらな! 行こうぜ、こっちだ! あははははっ!」
無駄に上機嫌なギースに連れられていく新。
横目で助けを求めているように見えたが、イリーナさんが認めてしまったことでそれもできなくなってしまった。
「……イリーナさん?」
「……まあ、向かおうとしていたお店は同じ場所でしたし、結局は遭遇していたんですよ」
「……面倒くさいと思っていませんか?」
「うっ!? ……いや、うん。申し訳ない」
……まあ、俺が初対面で面倒くさいと思ってしまったわけだし、同じ都市にいるイリーナさんがそう思っていても仕方がない……のか?
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