第242話:温泉とおもてなしと騒動と 39

「――僕が一発、でっかい魔法をぶっ放そうか?」


 朝食の席でそう口にしたのは森谷だった。

 確かに森谷がいれば大抵の相手には負けないだろう。……というか、負ける相手が誰なのかが逆に気になるところではある。


「いいえ、森谷さん。赤城さんは絶対に私たちが止めます!」

「そうかい? でもまあ、無理はしないようにね。話を聞いていると相手も上級職、それも破壊者クラッシャーだっていうじゃないか。上級職同士だとレベル差が大きく出るからね」


 森谷の言う通り、赤城は上級職のレベル75なのだ。

 特級職の三人ならもしかすると職業差で戦えるかもしれないが、とはいえレベルが離れ過ぎている。ほとんどのステータスで赤城の方が上回っていた。

 さらに先生の場合は職業差もなく、単純なレベル差でステータスが大きく変わってくる。

 森谷が言うには破壊者は完全な近接戦闘職らしいので、魔法を駆使すればもしかしたら先生でも勝てるかもしれないが、それはものすごく難しいことでもあった。


「破壊者は魔法をも破壊するスキルを持っているからね。レベル75ともなれば魔力も多くなるだろうし、一筋縄じゃいかないからね。桃李は何か対策を考えているのかい?」


 急に俺へ質問が飛んできたが、対策というか、先生ひとりで戦わせるつもりはないことを伝えた。


「俺たち全員で対処しようと思っているよ。俺に先生、新に円にユリア、この五人でな」

「桃李はみんなへの指示出しかい?」

「まあ、そうなるだろうな」


 戦闘職の四人とは違い、俺は神級職とはいえ支援職である。

 多少の自衛はできるとはいえ、赤城を相手に戦えるとは爪の先ほども思わない。

 とはいえ、みんなに全てを任せるのも違う気がするので、俺にできることを全力で行う予定だ。


「そっかー。……だったら、防御用の魔導具を作っておいた方がいいんじゃないかな」

「防御用の、魔導具?」


 そういえば、断絶の刃を貰ってからは身の回りの生活改善のために魔導具を作っていて、戦闘用の魔導具を作っていなかったや。

 ……まあ、戦闘は他の人に任せっきりになっていたっていうのもあるんだけどな。


「一対多での戦闘の場合、一の方が狙うのは誰だと思う?」

「一の方が狙うのって……まあ、倒しやすい相手とか?」

「それもある。それと、多の中のリーダーを狙うんだ」

「……それ、俺じゃなくないか?」


 俺がリーダーだなんてあり得ない。それなら新か先生に任せた方がいい気がする。


「いいや、リーダーは桃李だよ。何せ、みんなに指示を出していくんだからね。そして、リーダーがいなくなれば多は連携を取れなくなって自滅することが多いんだ」

「単に指示出しをするだけで、みんな個人でも動けるけど?」

「そう思っているのがマズい。みんなは桃李の指示通りに動こうと思っているのに、突然その桃李が倒されたら、すぐに行動できると思うかい?」

「それは……」


 ……難しいと思う。

 あるのが当然だと思っていたものが急になくなるのだから、瞬時に的確な判断ができるとは到底思わない。


「それに、倒しやすい相手っていう部分でも桃李は該当しているじゃないか」

「……あー、確かにそうだな」

「倒しやすい相手であり、さらにリーダーだってことになれば、その赤城って子が最初に狙うのは、間違いなく桃李だろうね」


 森谷にそう言われると、俺は改めてゾッとしてしまった。

 あの赤城が俺を殺すためにまっしぐらで突っ込んで来るわけだろう? ……想像しただけでもめっちゃ怖いんだけど。


「それに相手は戦争をも経験して戦士になっているはずだ。なら、真正面からだけじゃなく、奇襲を狙うことだって考えられないかい?」

「うっ!? ……確かに、そうなったら俺にはどうしようもないな」


 鑑定スキルを使って常に赤城の居場所を把握することはできるが、もしもタイミングが悪く鑑定を使っていない時に一気に迫って来られたら……何もできずに殺されるかもしれない。


「……まあ、相手は桃李が神級職だって知らないだろうし、最初に狙うってことはないともうけどねー」

「……あれ? そういえばそうだな。……それじゃあ、なんで奇襲だとか言ったんだよ!」

「備えは大事だってことだよ。今の話だって、倒しやすい相手から奇襲で倒すことだってあるんだからね?」


 ……ぐ、ぐうの音も出ないよ。

 というわけで、俺は鑑定で赤城の位置を把握しながら、防御用の魔導具を作ることになったのだった。

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