第241話:赤城笑奈
「――ったく、なーんで私がこんな辺境くんだりまで来なきゃいけないのよ~!」
街道を歩きながら、笑奈はマリアへの恨み節を口にしていた。
だが、それも仕方がないと言えなくもない。
笑奈は元ロードグル国から一度シュリーデン国へ入り、そこから東へと進みウルンガルド国、そしてガレンラリア国と渡ってアデルリード国に入国している。
都合、五つの国に足を踏み入れていた笑奈は、アデルリード国に入った時点で疲労困憊の状態になっていた。
「しかも……こいつら、平和ボケし過ぎて犯罪とかも全く起こらねぇでやんの。これじゃあ私が暴れられないじゃないのよ~!」
喧嘩っ早い笑奈としては、シュリーデン国で騎士を相手に訓練をしているのが性に合っていた。
お互いに同意の上で殴り合うことができ、叩きのめしたとしても文句は言われない。
だからこそマリアの魔眼がなくても彼女に付き従っていたし、ある程度の自由を約束されていた。
「……ここでひと暴れしたら、どっかに逃げるのもありかもね~」
マリアから離れて仕事をこなすことは何度かあったが、最長でも一〇日という短い期間のものだけだった。
だが、今回は長期で離れることとなり、さらに五カ国と多くの国を渡り歩いたことで笑奈の心境にも変化が起きていた。
「このまま戻っても、私が裏切る可能性があるってわかったら、消されかねないしね~」
現在のレベル75はマリア軍の中でも最高に位置している。
だが、実力で言えばマリアを上回る強者がまだ残っていた。
「……生徒会長、邪魔だよね~」
特級職の勇者であり、もう一人の魔眼なしでマリアに付き従っている人物――
多くの部隊長クラスに一騎打ちを挑み、ことごとくを殺してきた笑奈だったが、それでも光也にだけは勝てる気がしなかった。
だが、それは光也だけであり、シュリーデン国で一緒だった新には感じていない。
日本にいた頃で単純な喧嘩であれば絶対に負けない自信がある。
故に、光也の何が理由で勝てないと思っているのか、実を言えば笑奈にもわかっていなかった。
だからこそ――怖いのだ。
「……ったく。私が生徒会長を怖いと思う日が来るなんてねぇ」
両手を頭の後ろに回しながらぼやいていると、視線の先に次の街が見えてきた。
シュリーデン国に入ってからは一番大きな街で、警備もそれなりに厳しいところでもある。
だが、笑奈にとっては全く関係のないことだった。
「さーて、それじゃあどこから侵入しようかねぇ~」
本来であれば誰も超えることのできないだろう高い外壁を遠目から眺め、ある程度の場所に目星を付ける。
街道を歩いていた笑奈だが、人目がなくなったところで道を外れ、気配を消して近づいていく。
そうして近づいた場所から、今度は見回りの兵士の気配を探り、タイミングを見計らい――跳躍した。
「――よっと! ……ほいっと!」
一気に外壁の上に着地した笑奈は、勢いそのままに飛び降りて内側に着地する。
笑奈は秘密裏に国から国へ移動を繰り返している。故に、他国で通用する身分証を持っていない。
入場することは可能だが、身分証がなければ入場料を支払う必要が出てきてしまう。
日本にいた頃の癖で、巻き上げることは好きでも、巻き上げられるのは大嫌いだった笑奈は、大きな街では不法に侵入して一日を過ごし、翌日には街を出ていた。
「あと数日で目的地に到着するはずよね。……どれだけ強い奴がいるのか、楽しみだね~」
来た時と同じように両手を頭の後ろに回した笑奈は、我が物顔で街の中を歩き出したのだった。
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