第216話:おもてなし準備の温泉街
桃李たちが王都へ向かっている間、温泉街に残った面々はおもてなしの準備に大忙しとなった。
現場指揮を取っているのはグウェイン、春香、ライアンの三人。
グウェインは王都から来る人たちが泊まる宿屋や温泉の手配を行い、春香は漣やすみれと共に料理の準備を行っており、ライアンは安全のためにウィルやリコットら兵士たちと共に温泉街周囲の安全確保を指揮している。
それぞれができることを精一杯行うことで、今回の陛下視察を満足いくものに仕上げようと動いていた。
「宿屋は問題ないかな。それに温泉も大丈夫そう。あとは、予定以上の人数が来た場合にどう動くかだな」
相当数の人数が泊まれるだけの宿屋は確保してある。もしも過剰だった場合でも宿屋の店主には領主であるアリーシャからその分の支払いをすると約束しているので問題はない。
ただ、グウェインが口にした通り予定以上の人数が来ていた時にどうするのか、それが問題だ。
できたばかりの頃であれば訪れる人の数も少なかったので問題なかったが、今では多くの冒険者だけではなく、観光客まで訪れるようになっている。
そこへ自国の王が訪れるのだから、周囲は騒然となるだろう。
あちらからも護衛の騎士は来るだろうと予想しているが、こちらでもそれなりに警備を強化しなければならないとも考えていた。
「確保済みの宿屋の警備は問題ない。追加が必要になった時のことはライアンさんたちと相談だな。……ふぅ。大変だけど、頑張らないとな!」
王都に向かっている桃李や姉のアリーシャの苦労を考えながら、自分にも鼓舞を入れるグウェインなのだった。
春香は漣やすみれ、そして元々温泉街で料理人をしている者たちと一緒に大量の料理の仕込みを行っていた。
漣やすみれはいつものことだが、料理人たちからすると初めて見る仕込みの方法などもあり困惑する者も多くいたものの、それでも料理を生業としてきた者たちなのでそこはすぐに慣れてくれた。
そうなると、料理人たちは料理職の二人の技術をなんとか盗みたいと目を凝らし、そして自らでも試していく。
失敗することもあったが、次には成功させてしまうということで春香も率先してチャレンジするように伝えていた。
「これくらいあれば大丈夫かしら?」
「そうだね。それに、これが全部なくなったとしても、俺が即席で何か作って出してあげるよ」
「うふふ。さすがは真宮君だね」
「そういうすみれはどうなんだ? デザートは完全に任せちゃってるけど?」
温泉街を造るにあたり、アリーシャやグウェインは大勢を相手にすることを想定していたのでご飯を作る料理人は大勢呼び寄せていたが、デザートを作る料理人は現時点で一人もいなかった。
ご飯担当の料理人が簡単なデザートを提供することはあっても、本格的なデザートは誰も手が出せていない。
故に、デザートだけはすみれに頼りっきりという状況になっていた。
「大丈夫です。秋ヶ瀬先生も手伝ってくれているからね」
「そういうことよ、真宮君。だから、あなたは自分にできる最高の仕事をお願いね」
「了解! へへへ、楽しみになってきたな~。即席料理が作れたら、なおありがたいな~」
漣は一人だけとても楽しそうに準備を進めており、それを見た春香とすみれは顔を見合わせると、小さく微笑んでいたのだった。
ライアンら兵士たちは、魔の森へ向かい魔獣狩りに勤しんでいた。
いつも通りの仕事ではあるが、今回は陛下が訪れるとあって念入りに行っている。
この時点になると兵士たちのレベルも50に迫る者が出始めているが、それでも単独で魔獣を討伐するには至っていない。
何せここは転移魔法陣を使って訪れた奥まった場所の間の森である。
宿場町に面している側の魔獣であれば問題ないが、温泉街周辺ともなれば命の危険は避けられないのだ。
「必ず五名以上で一匹の魔獣に当たるように! それでも無理だと思えば迷わず引け! そして私かウィル、もしくはリコットに知らせるのだ!」
「……ええええぇぇっ!! わ、私ですか!?」
まさか自分の名前が出てくるとは思わず、リコットは驚きの声をあげた。
下級職とはいえレベルは50を超えており、ライアンとウィルを除けば一番の実力者になっている。
年長の兵士たちもリコットがライアンたちと行動を共にして実力をつけていることは理解しているので、誰からも文句は出てこなかった。
「自信を持て、リコット。お前は強くなっているよ」
「その通りだ。だが、下級職という点では私や兵士長にはまだ及ばない。一人ではなく、仲間と共に魔獣へ当たればきっと大丈夫だろう」
「……は、はい! わかりました!」
「よし! それでは魔獣狩りを開始する! 全員、死ぬなよ!」
「「「「はい!」」」」
ライアンら兵士たちは、凶暴な魔獣が跋扈する魔の森へと足を踏み入れていった。
それぞれがそれぞれの仕事をこなし、おもてなしの準備が進んで行く。
それからしばらくして――予定していた場所へ桃李たちが戻ってきたのだった。
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