第197話:エピローグ
――温泉が噴き出して……じゃないか。新しい拠点を造り始めてから一ヶ月が経過した。
その間、俺は鑑定スキルをフルに活用してより良い拠点になるよう指示をしながら、自らも動いていく。
森谷による宝物庫作成が終了すると同時に簡易の小屋をいくつか造ってもらい、そのあとは魔の森の伐採を手伝ってもらっている。
小屋の完成を確認すると、俺は転移魔法陣を設置して大工を呼び寄せると、大急ぎでたくさんの家を建ててもらった。
何度かアリーシャたちも顔を出しては温泉に浸かって帰っていくなんてこともあったが、それこそが温泉の醍醐味でもあるのでいいと思っている。
……日帰り温泉旅行、いい響きだなぁ。
「わーい! かわいいー!」
「すげーっ! かっこいい!」
「えへへ、モフモフ~!」
そして、これは意外というか予想通りというか、従魔が子供たちに大人気になっていた。
試験的に人と従魔が共存する空間を作ってみたのだが、それが大変な好評を得ている。
まずは大人からと思っていたのだが、子供は素直なもので可愛い可愛い、格好いいものは格好いいと言って近寄ってきてくれたのだ。
当然ながら親は気が気ではなかったが、もちろん従魔たちが子供に危害を加えることはなく、楽しそうにじゃれ合っていた。
その光景を目の当たりにすると、森谷の言っていた人と従魔が共に暮らしていた世界は本当にあったんだなと思えてくる。
「はっ!」
「とりゃあっ!」
「ふんっ!」
「ほほほ。まだまだ、この程度では我に傷を負わせることはできんぞよ」
さらに驚いたことといえば、剣の女王が思いのほか人間に対して友好的だったことだ。
転移してきた兵士だけではなく、冒険者とも手合わせをして楽しんでいる。
冒険者の中には本気で倒してやろうと掛かっていく者もいたが、呆気なく返り討ちにされていた姿には笑いが漏れたものだ。
その中で新も何度か剣の女王と手合わせをしており、現時点では彼女を楽しませる人間の上位に位置している。
これからも上達して実力をつけていってもらいたいものだ。
「……はああぁぁ~」
「……これは、気持ちいいわねぇぇ~」
「……極楽じゃぁぁ~」
「……くぅぅっ! 傷に染みるが、効いてる気がするぜぇぇっ!」
そして最も気に入ってもらえているのが、一番の名所にもなっている温泉だ。
老若男女問わず、温泉は朝から晩まで大盛況。
さすがに掃除の時間も作らなければいけないので昼の時間を使って掃除をさせているが、それでも利用したいと言ってくる人がどんどん増えてきている。
これは水路を広げて温泉の数を増やさなければならないかもしれないな。
「いててっ。くそっ、あの雷雨地帯あり得ないだろう!」
「雷もそうだが、魔獣も強過ぎるぞ!」
「いやー、俺たちには無理だって。金を払って転移するに限るな!」
冒険者の中には雷雨地帯に挑戦している者もいたが、呆気なく逃げ帰ってきている。
転移魔法陣は有料にしているのだが、それでも法外な金額にはしていない。誰でも利用できるくらいに安く設定している。
人が集まってお金を落としてくれる、これ大事だよな。
「……ねえ、桃李君」
「どうしたんだ、円?」
「大樹さんのことなんだけど、陛下に会わせなくていいのかな?」
…………あ、忘れてた。
「……え、王都に連れて行った方がいいかな?」
「そりゃそうでしょうよ! 私だって王都に行って騎士団長をぶっ飛ばしたいのよ、早く行きましょうよ!」
「いや、お前の意見は却下だから」
「なんでよ!」
「近藤の意見はいいとして、確かに陛下には謁見させた方がいいだろうな」
「新もそう言うか!」
いや、当然だろうが。
しかし、今は森谷が管理の要にもなっているし、どうしたものか。
「……いっそのこと、温泉も体験してもらいたいし、陛下たちをこっちに呼ぶか?」
「「「……は?」」」
「いいんじゃないかな! 僕もその方が楽だしね!」
「うおっ!? ……森谷、聞いていたのかよ」
いきなり後ろから声を掛けられてしまい、変な声が出てしまった。
「頑張って造ったここも見てもらいたいし、どうかな? もしそうするなら、僕も全力で力を貸すけど?」
「それって、転移ってことか?」
「そういうこと! ちゃちゃちゃーって呼んじゃうよ?」
……うん、そうしよう。その方が俺も楽だ。
「よし! それじゃあ、一段落したら俺を王都の近くまで転移させてもらおうかな」
「私も行くからね!」
「えぇっ! 私も行きたいよ、桃李君!」
「俺も久しぶりに行ってみたいんだが」
「ちょ、ちょっと待て! まだ企画段階だから! いいか、決まったわけじゃないからな!」
「あはは! 本当にみんな、楽しいなあ!」
いや、俺は楽しくないからな! 絶対に一人で行った方が楽だからな!
どうなるかわからないが、今だけは拠点の整備に全力を注ぐとしよう。
……まあ、なるべく早く何かしらで連絡はしておかないとな。
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