第195話:予定外のサバイバル生活 62

 ――そこからさらに二日が経ち、とうとう森谷が帰って来た。


「ただいまー! いやー、楽しかったよ!」


 魔の森の奥へと向かい、それが楽しかったと言えるのは、アデルリード国だけではなく大陸全土を見渡しても、森谷くらいしかいないだろう。さすがは戦闘職と神級職である。


「それで、剣の女王のペンダントは手に入ったのか?」

「もちろんだよ!」


 ニコリと微笑んだ森谷が魔法鞄から取り出したのは、ミスリルのチェーンに加えて美しい銀細工のペンダントトップ、その中央には透明度の高い翠色の宝石が嵌め込まれたペンダントだった。


「綺麗なペンダントだなぁ」

「うわー! キラキラしてるねー!」

「円はこういうの好きよねー」

「うふふ。女性はやっぱり好きよねー」

「……こんなものを付けて、剣を振るっていたのか?」


 若干一名だけは異なる感想を口にしているが、ほとんどがペンダントの見た目に驚いている。

 男の俺から見ても剣の女王のペンダントは美しいとわかり、誰も見ていなければ手を伸ばしたくなるくらいだ。

 それにしても、相手は剣の女王というくらいだから、物理的に剣で戦いを挑んできたことだろう。

 神級職とはいえ魔法系の魔導師(神魔)である森谷はどのように戦い、そして倒し、これを手に入れたのだろうか。


「なあ、森谷。どうやって剣の女王を倒したんだ?」

「ん? 倒してないよ?」

「……はい?」

「剣の女王なんだけど、どうやら美しいものが好きな魔獣みたいでね。一番のお気に入りの品に劣化防止で保存魔法を掛けたら喜んでくれてさ、戦わずして手に入ったんだ!」


 ……マジか、こいつ。


「お前、魔獣を相手に対話をしたってことなのか?」

「まあ、そういうことになるのかなー」

「複数の魔獣を従魔にできる森谷だから驚きはしないけど……そういえば、剣の女王を従魔にしようとは思わなかったのか?」


 俺の問い掛けに対して、森谷は首を横に振った。


「従魔にするって簡単に言うけど、意外と難しいんだよ?」

「そうなのか?」


 話を聞くと、従魔契約にはお互いが納得していることが大前提になるらしい。

 膨大な魔力で無理やり服従させることもできるが、それだと本来の実力を全く発揮できず、ただそこにいるだけの魔獣に成り下がってしまう。

 俺たちの従魔は森谷と話し合いをした結果、納得して譲渡に応じてくれているので問題はないのだとか。

 そして今回の場合は剣の女王が従魔契約を認めないと言ってきたらしい。


「何が理由だったんだ?」

「簡単だよ。剣の女王は単に、自分のコレクションから離れたくなかったってだけさ」

「森谷が持ち歩けばいいんじゃないか? もしくは、剣の女王専用の保管庫を建ててそこに保管しておくとかできたんじゃないか?」


 何気なしに口にした言葉だったが、森谷は何かを感じたのかハッと顔を上げた。

 その瞳はキラキラと輝いているように見え、俺は面倒なことを口にしてしまったと今さらながら理解した。


「そっか! よし、そうしよう!」

「あの、森谷?」

「ちょっと出かけてくるから! 大丈夫、すぐに戻るよ!」

「いや、あの?」

「よーし、それじゃあちょっと行ってくるね!」

「あ、おい!」


 ……あちゃー、行っちゃったよ。

 まあ、すでに剣の女王とは良好関係を築けているわけだし、問題はないだろう。

 そう思って顔を上げると、円たちの視線が何故か俺に向いていた。


「……えっと、どうしたの?」

「桃李君、一言多いよ?」

「まーた面倒を増やしちゃったわねー」

「レレイナちゃん、大丈夫?」

「……はい。ありがとうございます、アキガセ様」

「剣の女王か。……一度、手合わせをしてみたいな」


 またしても一人だけ見方が違うようだが、何故か俺は責められているようだ。


「なんでそんな言い方をするんだよ?」

「だって、レレイナ様のことも考えてる?」

「そうよー。拠点のことは大樹さんとレレイナさんに任せているんだから、ちゃんと二人に相談しないとねー」


 思い付きで話をしただけなんだけど、どうやらダメだったようだ。

 というかレレイナさん、疲れすぎじゃないか? いや、俺のせいか。


「……なんか、ごめんな?」

「うぅぅ、モリヤ様、怖いよぅ」


 ……いや、そこはもう、俺にはどうにもできないところです。むしろ、忙しくなるなら忘れられるんじゃないかな、うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る