第184話:予定外のサバイバル生活 51

 森を少し進んで行くと、その魔獣は俺たちを待ち構えていた。

 人間がまともに相手をするにはあまりにも巨大で凶暴な魔獣、緑の鱗が特徴的なポイズンドラゴンが目の前でこちらを見下ろしている。

 ほっそりしていたクイーンドラゴンとは違い、大地を揺るがすほどに太い四肢が地面を陥没させながらこちらまで歩いてきたようで、後方の地面が酷い事になっている。

 木々が倒され、土が抉れ、抉れた地面に緑の液体が溜まっており鼻を突く臭いが漂って来ていた。


「みんな、気をつけて。緑の液体は毒だ」

「毒? そんなもの、円の魔法でぶっ飛ばしたらいいじゃないのよ」

「できると思うけど、やっていいのかな?」

「いや、止めておこう。蒸発した空気が毒になって周囲に飛んでいってしまう」


 今はまだ液体だが、蒸発して空気に混ざってしまうと手が付けられない。

 麻痺効果のある毒みたいなので、大量に吸い込むと戦闘中に動けなくなり、呆気なく殺されてしまうだろう。

 今の円ならバナナで魔力を倍増させて魔法で終わらせる事もできる……と思いきや、そうではない。

 光沢のある緑の鱗だが、どうやらこれには魔法を反射させる効果を持っているようで、無差別に魔法を叩き込んでも全部がこちらに返ってきてしまう。

 毒もあり、魔法も反射されるとなれば、ユリアに任せるというのもありだが……これも難しい。

 そもそものレベル差があり過ぎて果物を食べてもポイズンドラゴンの数値に追いつかない。

 さらに言えば、一つだけ突出している数値があるのだが、これが魔力の数値だった。

 毒を出すのも魔法を跳ね返すのも、ポイズンドラゴンは魔力を使って効果を発揮しているようだ。

 その魔力さえ尽きさせれば円やユリアでも倒す事ができるだろう。


「結局どうするのよ? ハクにやらせるの?」

「……いいや、それも違う」

「そうなの? それじゃあどうするの?」


 俺たちが目の前で考え込んでいるものの、何故かポイズンドラゴンは攻撃を仕掛けて来ない。

 それが何故なのかを考えると、森谷が関わっていると考えれば合点がいく。

 当初の推測通り、森谷からの試練だと考えて、ポイズンドラゴンを倒す方法もきっと俺たちの中に隠されている。

 そこを従魔に頼るのもありかもしれないが、俺はそれ以外の方法を考えついているのだ。


「ここは――俺に任せてもらうぜ!」

「「……は?」」

「なんだよ、その反応は!」

「だって……桃李だよ?」

「うん、桃李君だし」

「ビギャー」

「クウゥゥン」

「……」


 この場にいる全員が呆れ顔を浮かべている。……酷くない?

 とはいえ、俺だってなんの策もなくポイズンドラゴンと戦うつもりはないし、みんなの協力だって必要だ。

 俺が行うのは最後の一撃を決めるだけで、そこまでのお膳立てをお願いしたい。


「というわけで、ポイズンドラゴンを引きつけてくれ」

「なーんだ、結局は私たちの力が必要なのねー」

「任せてよ、桃李君!」

「ビギャギャー!」

「ガウガウ!」

「……!」


 うんうん、ユリア以外は素直に力を貸してくれるようだ。こいつももう少し素直になってくれれば可愛いんだけどなぁ。


「……あんた、変な事を考えてない?」

「ん? いや、そんな事はないぞ? さあさあ、俺のために力を貸してくれよ」

「……いいわよ。それじゃあ、ぶどうを食べてからやってやろうじゃないの!」


 少しだけやけくそ気味のユリアだったが素直にぶどうを食べて、円はバナナをもしゃもしゃ食べている。


「サニーも食べるか?」

「……ビビ」

「食べないのか?」

「ビギャ」


 サニーは果物を食べず、ハクやグレゴリも同じだった。

 人間専用の食べ物なのか? それとも魔獣には効果がないものなのか?

 まあ、食べたくないのなら無理に食べさせるわけにはいかないか。


「よっしゃー! それじゃあ、いくわよ!」

「補助魔法を掛けるね!」

「……補助魔法?」

「全ステータス補助だよ」


 ……マジ? いつの間にそんなすごい魔法を覚えたのよ?


「……おぉっ! なんだか力が漲ってきた気がする!」

「果物ほどではないけど、少しは動きやすくなると思うよ」

「ありがとう! よーし、いっくよー!」


 ――ドンッ!


 地面を吹き飛ばしながら、ユリアがポイズンドラゴンに突っ込んでいった。


「ハ、ハクもいってくれ! あの野郎、マジで猪突猛進だな!」

「ガウガウッ!」

「サニーは遠くから気を引いてくれ、グレゴリは円を守れ!」

「ビギャー!」

「……!」

『…………ブグルルララアアアアァァアアァァッ!!』


 よし、俺はこっそりと移動してチャンスを窺うか。

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